2012年11月の読書日記

「高丘親王航海記」


これぞ旅だという感じがした。新しい東南アジアの国を発見した気分になる。

時は昔、平城京の時代に当時の日本の親王が、天竺を目指して旅に出る。まず船で中国に渡り、そこから南方へこれも海路で移動する。その船が嵐に遭い、方角を見失い、そんなときジュゴンが海の上に顔を出し人間の言葉でしゃべりかけてきた‥‥というところで、あれ?これ実話じゃなかったの!?と気がついたのだが、まあそんなことはどっちでもいい。

そんな調子で、親王とお付きの3人の旅の一行は、未開の東南アジアと出会っていく。架空とはいえ実際の地理とリンクしていて、トレンサップ湖やボロブドゥール、アンコールワットを思わせる場所や雲南の奥深くにある王国など、本当にこんな世界があったかもしれない、と想像力をかき立てられる。

この先にどんな世界があるかわからないという状態で旅をしたら、実際こんな感覚だったんじゃないだろうかと思わせる。動物と人間が合体したような生き物や、夢を本当に食べるバク‥‥まああり得ない世界ではあるけど、たしかに初めて蟻塚を見たら何じゃこれはと思うだろうし、ラフレシアの花を見ても驚くだろう。そういう状況での旅はワクワクするだろうなと思う。

あと親王の幼い頃の思い出の女性の影が、旅のところどころに顔を出すのも、何かリアルな男の旅情という感じがした。こういう旅がしてみたい。

「隅田川のエジソン」


坂口恭平氏による、路上生活者へのフィールドワークをもとにした小説。路上生活者の興味深い暮らし方については、坂口氏の別の本で知っているつもりだったけど、この本では小説という形をとることで、それがよりリアルに具体的に描かれている。すべてに坂口恭平が投影されてるんじゃないかと思えるような登場人物もいい。男女関係あり、人の生き死にあり、大団円ありとエンターテインメント性も高く、改めて坂口恭平すごいなあと思い知らされた感じだ。

「人間は住む場所によって変わってくる」とか共感できる言葉もあるし、アルミ缶拾いを最初は恥ずかしがる主人公が、でもそれは「自分の価値観の問題でしかない」と気づくところなど、そうだよなあと思わさせる。ラブホテルからアルミ缶をもらう「契約」をするシーンにはちょっと目頭が熱くなったし、狩猟民族のようなマーコとの愛情に満ちた関係にもじわっとした感慨がある。ラストは映画的だけど、やはり感動的な旅立ちのシーンで終わっている。

ちょっと気になったのは「川沿いっていうのは晴れが多いんじゃないか」というセリフで、意外にそういうこともあり得るなと思ったのだった。