2012年2月の読書

「千利休―無言の前衛」赤瀬川源平

千利休はまさに前衛の人であり、形式化していくことから逃げ続けた人のようだ。それは孤独な行為だけど、すごくかっこいい。自分も前衛でありたいという気持ちがどこかある。それと同時に、ある程度、世の中に合わせていった方が安全だという意識もある。そういうバランスをとりながら生きているのだと思う。きっとほとんどの人がそうなのだろう。同居人が茶道を習い始め、いったい茶道のどこに魅力があるのだろうと思ったのが、この本を手に取った理由のひとつだったけど、千利休が目指していたものは、自分がイメージしていた茶道とは真逆のものだとわかった。 「ヤクザと原発 福島第一潜入記」

社会の暗部を覗きたい。そんな気持ちは誰にもあるものだと思う。そこをくすぐるタイトルの本だけど、でも中身はいたずらにスキャンダラスなものではなく、著者自身の弱さや打算も見つめるような誠実さが伝わってくる本だった。 暴力団取材を専門とするジャーナリストである著者は、原発の作業員として福島第一原発に乗り込む。正規の社員として関連会社に就職したのだ。その目的は潜入取材をするため。でも正規の社員となってしまったために、あからさまな取材活動はできない。就職のために世話になった人や、一緒に働いている人に迷惑をかけられないからだ。職場ではそういう「人間関係」がある。それはヤクザの世界でも同じだ。彼らは人間関係をコントロールすることで生計を立てている。地方に行くほどそれは強く、そのことが原発を親和性が高い。 著者も振り返っているように、原発の実態自体は、労働者として中に入ってもよくわからない。核心を知っている人はごく少数で、作業員としてそこにかかわることは難しい。重要な情報を持っている人をたどって、外部から取材するほうが取材としては意味があったかもしれない。そう著者は振り返っている。でも現場を取り巻く人間関係を体感するには、その組織の一部として働いてみなければならない。自分の体で感じた経験を伝えてくれる貴重な本だと思った。

「海賊の経済学」

海賊とは極悪人の集まりだと思われている。でも実は民主的で争いを極力なくすような組織の運営がなされていた。それを経済学の視点から見てみようという内容。たとえば、海賊船では、権力者が私服を肥やさないように船長は選挙で決められた。またウォーターマスターという戦闘時以外のリーダーを置いて(船長は戦闘時のリーダー)、権力を分散させた。これは民主主義そのものであるという。 そのとおりだなと思ったのは、個人の立場からすると「全力を尽くすふりをして怠けるのがいちばん得だ」という話。会社などでは雇い主と働き手の利害は完全には一致しないから、そうなってしまう。でも、海賊の場合はその利害が一致した。それは船がもともとは盗難船で特定のオーナーがおらず、乗組員の共同所有だったから。このように公共財を共同所有することで、このプリンシパル・エージェント問題と呼ばれる問題を防ぐことができたそうだ。

というような内容の本だけど、そもそもどうして自分はこんなふうに経済学の本を立て続けに読んでいるんだ?

自分が何に動かされているのか、を知りたいのかもしれない。

「評価経済社会 ぼくらは世界の変わり目に立ち会っている」

おもしろい。お金が価値を持つ時代の次に来るのは、評価が価値を持つ時代である。という話。 「パラダイムシフトが起きるときには、技術の変化だけではなく、人々の価値観の変化も起こる。その新しい価値観は、現在の価値観のなかでは予測することが難しい。だから、経済論や技術論では、未来を正確に予測することができない」とか、堺屋太一が言ったという「その時代の価値観を決めるのは、何が豊富にあり、何が不足しているかだ。たくさんあるものを多く使い、不足しているものを大切に使う人が賞賛される」など、覚えておきたい考え方がいろいろある。 評価経済の時代が来るとして、では自分はどうするか。すわ評価が大事だとばかり、たとえばネット上で目で見える評価の数に一喜一憂していては、競争に巻き込まれてしまう。この本が言っているのも、評価を競争する時代が来ると言うことだ。そこでテレビの視聴率みたいに数字の増減にばかり気を取られてしまっては、同じことなんじゃないだろうか。その競争からは一歩距離を置いていたい気がする。

ともかく、お金が価値を失った後に自分はどうする?ということを考えさせてくれる内容だった。