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●苛酷なる見積もりの世界

今のマンションに入ったときには、親に手伝ってもらって自分たちで引っ越した。その前もそう。今回もなるべくお金をかけたくない。予算は3万円。

要は見積もりビギナーである。

今のうちは、エレベーター付き3LDKの2階。

引っ越し先は、エレベーターなし3DKの5階。引っ越し人数は2人。移動距離は2kmほどである。

これが毎回聞かれることになる条件。

母に引っ越すことをいうと、今日ちょうどチラシが入ってたで、と聞いたこともない名前のS引越センターを教えてくれた。「普通の半額」が売りらしい。

まずは、このオカンのチラシのS会社に電話。早速その日の夜に見積もりに来てもらった。会社の青いポロシャツを無造作に着た青年だった。部屋を見ておべんちゃらなのか、めちゃいい感じの家っすね、こんな家お邪魔したのは正直(口癖のようだ)はじめてっす。という。野球が好きだというと、彼は高校サッカーで全国大会に出たことがあると言った。こちらもあーすごくサッカーしてそうな感じ!と話が弾んだ様子を見せておいた。そんな中でも荷物をかなり入念にチェックし、ハンガーBOXにかけられる荷物はここからここまでです、とか実際の打ち合わせっぽいことまで話していく。値段は最後の最後まで話題にならないのでいらちの私には、面倒くさい。

真っ白な電卓をたたき、彼が示してきた値段は、68,000円。

もちろん、最初の価格なので値引きはできるだろうとは思ったが、残念ながら全然予算オーバーなんよね、と伝えて頭を抱えた。彼らは3階以上に関しては、割増料金を取ることになっているとのこと。わたしたちもそこを突かれると辛いので、さらにうーん、とうなってしまった。他になんか私たちにできることある?手伝うからまけてよ、と言うと、わかりました。じゃあ、本当にお手伝い頂けるなら、とソファーなし(最初は捨てる気だった)、ベランダの各種植木なしで51,800円を出してきた。

意外と下がらん。

他にも、どうしても自力では辛そうな冷蔵庫、洗濯機、大きな木の机3点セットだけなら?に対しては3万円とのことでこれだけで予算終了なのでお話にならんなぁ…とその場では決めかねて、お帰り願った。ただし先ほどの価格は即決価格なのでもうあとでは出せないかもです、と捨てゼリフ。くぅ。

彼が帰ったあと明日また別のとこ見積もり取ろうよとか言ってたものの、30分後、やっぱりさっきの即決価格で頼もう今なら間に合うんちゃう?と電話。

彼いわく、今から会社帰って上司と相談させていただきます。となんかそっけない?返事(夫に電話してもらった)。

結局、その夜電話は鳴らず、悶々としたのだった。

鍵受け渡し日まで、あと32日。

眠れないまま朝が来て