(いろんな意味で)東南アジア一高い山

ボルネオ島に行ったら、当然キナバル山の登山をするつもりでいた。キナバル山は標高が4095メートルあって、東南アジアで一番高い山だと言われている。

キナバル山に登るには山小屋に泊まる必要がある。それを調べていると目を疑うようなお値段が。インターネットでの直接事前予約だと、2泊3日以上のプランしか選べず、金額は合計4万円越え~である。二人なら倍の8万円……。信じられずあれこれ調べてみるのだが、高くても気にせずツアーで行っている人ががネット上には多くて、高いのでやめました、という話もあまり載っていない。

そんなにかかるならやめようかな、東南アジアで一番高い山、登ってみたかったけどな……高いのは値段やんか。と思いながら、懇意にしているガイドブック、ロンリープラネットを読んでいると、ここにはちゃんと「高すぎると思う人は、山には登らずキナバル山国立公園内をトレッキングするといいよ」と書かれていた。さすがロンリープラネット、わかってるね!と、そのプランを選択することにした。だいたい10日間しかない日程のうちの3日間を登山に取られることについて、Tはそこまで乗り気じゃなかったし。

コタキナバルの町を朝7時半くらいに出発して、ミニバンでキナバル国立公園へ行く。所要約2時間。行きはいいのだが、帰りのミニバンは捕まえるのが難しいという話を聞いていた。TAXIで帰るとなると、かなり高くつく。行きのミニバンの運転手が降り際に、帰りのチケットを前払いで予約販売しようとしていたが、こちらとしてもトレッキング後にきっちり約束の時間に降りてこられるかどうかわからないため、買わなかった。聞くとだいたい1時間に1本くらいはミニバンが通るようなので、それにかけることにする。

国立公園への道すがら、車内からキナバル山のどーんとした姿を眺めることができた。今から登るとなると、こんな岩山を登るのか、きつそうやなぁ、と思うのだろうが、今回は麓を散歩するだけなので、ここまで来てよかったな、としみじみ思った。Tは窓越しに写真を撮ろうとしていたが、おもしろいくらいに必ず電線や電信柱が写り込んで苦戦していた。車道と美しい風景の間には、必ず電線があるのである。

国立公園の入り口に着き、さっそくトレッキングに出発。ヘッドクォーターでもらった地図を手にトレイルを歩く。来るとき同じミニバンに韓国人のカップルが乗っていたのが、女性がワンピースにショルダーバックという姿で、あの格好でどこを歩くのかなぁ、と思っていたら、途中の東屋に私たちより先に到着していて驚いた。

持参したナシルマ弁当のお昼ご飯をはさみ、5時間ほどトレイルを歩き回って15時くらいにバス停に降りたら、またさっきの韓国人カップルがいた。話かけてみたら新婚旅行とのことで、チェジウみたいな色白美人(サングラスをかけていたので詳しくはわからないけど)の奥さんは中国語を話せるのだという。ダンナさんのほうは流暢に英語を操り、日本人では内村鑑三や伊藤博文が好きです、ご存知ですか? とか聞かれて、どちらも名前しか知らないくらいなのでたじたじだった。

彼らはすでにここで1時間くらいバスを待っているが、まだ来ないと言う。そこにブローカー的な女性が登場。どこかに電話していたかと思うと、もうひとり韓国人の若者も連れてきて、そこにどこからともなく空のミニバンがやってきた。1台をこの5人でシェアして普通の1.5倍くらいの運賃だというが、これ以上の条件は望めそうにないので、乗り込む。ちなみにその韓国人の若者は髪を染めてヘッドフォンを首にかけた今風のファッションだったけど、聞くとキナバル山に登って降りてきたばかりだそうだ。 東南アジア一高い山にたぶん東南アジア一高い値段を払って登頂したその若者は、ミニバンが走り出すとすぐに爆睡していた。

キナバル山国立公園は確かにトレッキングルートはいろいろあったけど、“なんとかView Trail”とか銘打っているわりにキナバル山の姿が見えるわけでもなく、見えたのはサルの影と、きれいな虫をいくつかくらいで、ボルネオ島お初のトレッキングは、やや不完全燃焼気味に終わった。キナバル山はただ見に行くか登るかで、周りを歩くだけというのはちょっと中途半端だったかもしれない。まあ私たちの懐具合にはちょうどよかったとも言えなくもないけど。