なんなんその態度(Douz)

朝、目覚めて部屋を出ようとすると、鍵がないことに気づいた。昨日の晩はぼくが戸締まりをしたはずなのに。しかし、どこを探してもない。絶望的な気分になりながら、宿のおじさんに報告すると「ああ、扉につけ忘れてたね」と言って出してきてくれた。

宿をチェックアウトしてバスステーションへ。今日こそはタクシーで移動しよう、その方が早いし値段も安いし、と思っていたけれど、ついつい歩いてしまう。ルアージュに乗って、ドゥーズという砂漠に近い町へ向かう。だんだん乾燥地帯になってきた。山が、段々畑を斜めにしたみたいな形になっていて奇妙だ。2時間くらいでドゥーズに到着。

ルアージュを降りても客引きらしい人は近づいてこない。砂漠ツアーで有名な観光地だと思っていたのに、普通のローカルな町という感じ。いい意味で拍子抜けだ。

と思いながら少し歩くと、ひとりの男性が話しかけてきた。彼こそははツアー会社の客引きで、早口で唾を飛ばしながら話す。とりあえずオフィスまで行き、カードだけもらうことにする。しかしオフィスに行くとカードはなく、ツアーの内容と値段だけ聞いてそこを出た。内容は悪くないと思ったけど、この人がなんか信用できないというか……唾がかかってるんですけど。

ガイドブックにも載っていた別のツアー会社に行ってみると、黒人の女性がさっと料金表を出してくれた。ツアーの内容ごとに料金が明記されていて、さっきのところよりも少し安い。内容もしっかりしてそうなので、ここに申し込むことにした。ツアーと聞くと料金交渉しなきゃと思い、ちょっと面倒くさい気分になるのだけど、ここみたいに料金表が用意されているのは珍しい。そういえばチュニジアでは市場で売られている生鮮食品なども、1キロいくらと値段を書いた札が掲げられている場合が多かった。明朗会計の国だ。

古靴屋が出ていたので物色する。どこの町にも古靴屋や古着屋があって、なんだか掘り出し物がありそうな気がするのでついつい探し始めてしまう。ここの靴は良さそうなものが多くレベルが高いな、と思ったら値段も高かった。この砂漠の町まで運ぶのには輸送費もかかるし、いい物だけを厳選して持ってきているのかもしれない。

ドゥーズは砂漠の町のはずだけど、新鮮そうな野菜や果物が多く売られている。ここでもオアシスのナツメヤシの下で野菜を育てているのだろう。旬なのか人参がたくさん売られていた。頭に布をまいた砂漠の民といった感じの人が多く見られる。

昼食をとろうと、市場の近くの食堂に入る。店の主人は愛想が悪く、料理を持ってきても雑に置いて、無言で立ち去ろうとする。

「なんなんその態度!」

と同行人が思わず日本語で声を荒げたところ、雰囲気は伝わったのか「あ、いや、ご注文は以上でしたか?」みたいなことを言った。まあそんなことがあったとはいえ、料理はおいしかった。オジャというスクランブルエッグのような卵料理。そこにメルゲスというソーセージが入っている。

しかし、レストランはどこもがらがらだ。普通の人は外で食事をしないのだろう。ガベスの町で話をしたレストランの主人によると、例えばクスクスは家庭で食べるもので、普通はレストランで出すものではないそうだ。たいていはツーリスト向けだという。いまはツーリストが少ないので、その店ではクスクスは出していないと言っていた。