継承と発展⑦社会科「考えると暗記」
社会科教育2011年7月号「考える社会科と暗記の社会科」
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授業者からみた社会科論争史
白熱の あの頃 あの時を検証する
考える社会科と暗記させる社会科
~都道府県名や地図記号、どこまで暗記すれば使えるのか。
楽しく暗記した知識を考えるのに役立てればいい。
要は授業方法である。
川原雅樹(兵庫県篠山市立城南小学校)
谷和樹(玉川大学准教授)
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一
「社会は暗記ばっかりだから嫌い」
「地名なんか暗記しなくても調べればいい」。
暗記することがまるで悪のように言われることがある。
体力主義で、
できるまで何回も暗記させられれば社会科が嫌になることはある。要は方法だ。
楽しく暗記できるのが一番いい。
┌───────────────┐
│①楽しく暗記できる授業は楽しい。│
│②楽しい授業は自然に暗記できる。│
│③暗記した知識は世界を広げる。│
└───────────────┘
以下、右記三点について述べる。
二
要は授業方法である。
現在教えている五年生の感想を紹介する。
┌───────────────┐
│①私は5年生になって大嫌いだっ│
│た社会が大好きになりました。地│
│図帳で地名を探すのが大好きです。│
│②九州地方とか世界地図とか簡単│
│に書けて覚えられるから役立ちま│
│す。ちゃんと覚えて大人になって│
│も忘れないようにします。 │
└───────────────┘
地図帳でページ数を指定し地名を出題する。
見つけた子が次々立っていく。
一番に立った子が次の地名を出題する。
この繰り返しが地名探しだ。
向山洋一氏の追試である。
単純な繰り返しだが、子どもたちは熱中する。
「地名探しやろう」とコールが起こる。そして、いつの間にか地名を覚える。索引の使い方も身につける。
日常で地図帳を見るようにもなる。
自然に地名が暗記でき、調べ方も身につけられる方法だ。
略地図書きもやる。
例えば中国地方などを簡単な形に書き、そこに県名を入れる。
日本地図や世界地図を書くこともある。
これもいつの間にか地名や位置が暗記できる。
社会科も好きになる。
昔からやられている方法だ。
地図記号を薄い紙に直写させることもある。
フラッシュカードもする。
いつの間にか楽しく記号を覚える。
テストだけでなく、
楽しく自然に暗記できる授業は子どもたちも大好きだ。
三
「地理教育論序説」(西脇保幸著 二宮書店)によると、
地名や地域生産物を暗記する教育は、
1880年代より「機械的な詰め込み」と批判されている。
この頃の国定教科書は「地名物産の羅列」と評され、
各師範学校では地名の丸暗記でなく、
地域に即した調べ学習が実践されていた。
例えば大正時代、
兵庫県明石女子師範付属学校では
「神奈川県が一番繁盛しているのはなぜか」の問いから、
子どもが神奈川の位置や海との関係、人口、輸出入品等を調べ、
それを元に神戸の特徴を理解させる実践を行っている。
(「21世紀の地理」村山祐司編 朝倉書店より)
以後、明治期よりの
「地名物産暗記批判」は、戦後、体験重視社会科に受け継がれ、
更に、科学的・系統的な社会科へ引き継がれる。
1977年に出版された
「小学校の地理教育」(松村吉郎他著 地歴社)には、
次のように記述されている。
┌───────────────┐
│ 地名物産地理の批判が出されて│
│から、三十年たとうとする今日、│
│子どもの科学的認識を追究する地│
│理教育のなかでも、地名や物産の│
│扱いをどうすることがよい方法か│
│に、正しい決着がついたとはいえ│
│ません。 │
└───────────────┘
地名等の暗記について、戦後三十年たった頃の社会科でも、
まだ結果が出ていないことがよく分かる記述である。
四
しかし同じ頃、
「すべての生徒が百点を」(地歴社 1977年)で
著者の加藤文三は暗記の重要さを次のように述べている。
┌───────────────┐
│ 年代や、歴史的な語句など、社│
│会に生きていくために必要な基本│
│的な知識を持っていないで、どう│
│して「歴史的な物の見方や考え方」│
│ができるのだろうか。 │
└───────────────┘
加藤は、中学三年を担任した時、高校浪人を出す。
それ以来、社会科における暗記の大切さを主張している。
加藤は歴史について述べているが、これは地理も全く同じである。基本的な都道府県名や地図記号がわからず、
どうして「社会的な見方」ができるだろう。
例えば、五年生の農業単元に
宮崎のピーマンの生産がなぜ伸びたのかの課題がある。
気候や促成栽培などの生産の工夫、
そしてカーフェリーの就航などがその大きな理由だ。
宮崎の大体の位置もわからなければ、
これらのことは理解できない。
大体の位置を知ってさえいれば、
それを元に予想し資料も入手出来る。
基本的な知識を暗記することこそ、
考えの幅が広がり、考えるときの足場となる。
五
前掲書「21世紀の地理」で岩田一彦氏は昭和43年指導要領で
小学校地理分野は「事例学習」に転換され
「小学校の世界の諸地域学習は、
知識過剰の弊害から逃れることになった」と述べている。
以降、今回の改訂まで地名などはあまり暗記されなくなった。
北海道の子どもたちが
北海道の位置を知らないという話まで出るようになった。
2007年の調査によると
「47都道府県の名称と位置」を正確に答えられた六年生は
55%である。
うち自分の住んでいる都道府県の位置の正答率は90%である。
逆に言うと自分の都道府県を
10%の子が知らないということである。
今回の指導要領では、小学校修了まで
47都道府県の名称と位置を身につけると明記されている。
楽しい暗記で、
少なくとも
「兵庫県は近畿地方にある」とイメージできる子どもを育てたい。
群馬大の山口幸男氏は、
「地理教育の本質的考察」(2008年)で地理教育の有用性を
次のように述べている。
┌───────────────┐
│1 生活実用的有用性 │
│2 社会的問題解決的有用性 │
│3 人間・社会の存在の根源に関│
│ わる有用性 │
└───────────────┘
暗記した地理的知識は、
生活や他の学習と結び付いた時、初めて役立つ。
暗記した知識もまた生きるのである。