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三十年ぐらい昔、教育実習生の実習日誌に私は毎日コメントを書いた。その中から一般性のあるものを拾い出してみる。
授業の原則である。
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1.〔正確な文〕教師は、言葉、文が正確であることが大切です。君の
「実習に当たって」の文章を読んで見て、正直にいって、いただけ
ませんでした。しかし、今日の日誌の文はかなり正確で、その点
見直しています。(主語・述語がきちんとした文章を書くーこれ
だけでいいのだが、これがなかなかできないのである)
2.〔資質〕第一印象から見る君の良さは”素直さ””前向き”にあると
思います。そのことがある以上、ほかのことが少々(かなり)低い
ものであっても必ず、前進していくものです。(素直な人は他人の
意見を受け入れる、前向きな人は本を読み、勉強をする)
3.〔プロ〕プロの修業は、手取り足取りするものではありません。
そうするのは、アマのうちです。どれだけのことを学んで帰れる
かは、君次第です。頑張ってください。
4.〔価値〕この日誌は、君との共同の作品です。私が、今まで
考えてもいなかったことなどが出てくれば、私にとっても、価値が
あるものとなります。
5.〔達意の文〕今日の日誌の文章は、安心して読み通せました。品が
よく感じられました。文は、名文や美文を書く必要はないのです。
正確で意味の通じる文、つまり達意の文を書くことが大切です。
若い頃は(私もそうでしたが)、意味不明の文体、表現に憧れるの
ですが、今思い起こすとそういうのはかなりの悪文ではないかと
思います。丸谷才一著『文章読本』(中央公論社)を薦めます。
いつか読んでみてください。
6.〔組織化〕席を替える方法は、どのようでもいいのです。公平さ
などの配慮があればいいのです。当番、係、日直、これらの仕組み
の中で、クラスは動きます。ジャンケンの方法については、少々
哲学的な考えもあるのですが、いずれ。
7.〔名前〕今日は不満が一つあります。日誌に子供の名前が一人も
出ていないことです。漠然としていたのを感じます。全員を何日で
覚えられるか、教師としての一つの基本です。私は一日です。
もちろん、それだけの努力もします。一日でなくてもいいですが、
「いつまでに覚える」と自分の心に決めて、意図的に努力を
しなくてはいけません。
8.〔用語〕少々専門的になりますが、「知識」を「認識させる」と
いうことは、どんなことですか。また「未知」の「思考力」とは、
ありえますか。教師としての専門の論文なら、こういう、曖昧な
表現は許されません(雑文なら別です)。
9.〔言葉〕「替える」で一言、「着替える」は「きかえる」と読み
ます。「きがえる」は間違いです。ただし、名詞として使う
場合は、(「きかえ」が正しいのですが)「きがえ」でもいい
ことになっています。ついでに「椅子に座る」は、間違いです。
「座る」と「腰掛ける」を辞書で引いてください。
10.〔側面・点〕私は、原則として、「教師側」という言葉を使い
ません。好みの問題かもしれませんが、曖昧で嫌いです。
A学校側、B学校、C教師、A、B、Cの語の指示する内容は、どの
ように違うのですか? ついでに添えると、次の例は間違いです。
「教育面で考えれば、間違いは教育をしないという点である」面と
点を区別していないからです。
11.〔固有名詞〕子供の固有名詞を出して文を書くこと。もう三日目
です。
12.〔原理〕常に原理から出発して授業を組み立てるということです。
13.〔遊ぶ〕子供と遊んだことも同様です。できるだけ子供たちが
S君を好きになり、群がるように配慮することも、私の仕事です。
一緒に遊んで、子供たちは、大変喜んでいました。
14.〔届く〕教室で話した言葉は、全ての子供に届いてなければなり
ません。
15.〔全員〕全ての子供が「できた」が「できない」かを、必ずみて
おかなければなりません。その方法は、幾つもあります。但し、
「分かりましたね」「分かりましたか」というのは、まずい方法
です。事実を、確かめにくいからです。
16.〔順序〕何をどのような順で教えるか、はっきりしていなければ
なりません。そうでないと、授業中詰まってしまうことがあるから
です。授業が、だれるからです。ですから指導案が大切なのです。
17.〔学び続ける〕「出来の良い実習生」が、出来の良い教師になる
とは限りません。仕事ができるかできないかは、そういうことが、
中心の問題ではありません。仕事の腕を身に付けていく上で大切
なのは、学び続けることです。”学ぶ”というのは、文字どおり
続けるです。意志を貫くことです。線香花火みたいではなく、持続
するということこそ大切です。それ以外は、付属的な問題です。
たとえ、君が、「教育学部」を出ていなくても、あるいは、学生
時代、小さい頃、勉強が嫌いであっても、物覚えが悪くても、
そんなことはどうだっていいことなのです。むしろ、そうした
ことに思い上がる人に比べれば、はるかに”出来のいい教師”に
なれる可能性を持っています。教師実習とは、自分がどれだけ
できるかを確かめる場ではなく、自分がどれだけ駄目か、自分が
どれほどできないかを、骨身に染みて、確認する場なのです。
18.〔原理〕本日の社会科の授業、原理は何か、原理をどう組み
立てるかという視点が欠けています。普通、その授業の中心になる
原理(大切な点)は一つでいいのです。授業に入る前の指示などは
立派でした。一昨日と見違えるようでした。
19.〔発問〕今日の国語の授業、面白かったです。発問のたびに子供の
反応が違っていて私も勉強になりました。発問には、A限定生、B
具体性、がなければいけないと思います。そうでないと、何を
聞かれているのか、分からなくなるからです。
20.〔ゆっくり〕少ない、良いものを、ゆっくり考えることが大切
です。子供の意見を確かめ返していくことが、もっとあってよい
です。
21.〔理解〕国語の授業に対する感想、これでよいと思います。
〈大切なこと〉
A あることを理解させるには、それと反対のこと、又は、対比
されるものを出すといい。
B 対比に当たっては、課題が、具体的であるように心掛ける
こと。
22.〔失敗〕反省のところ、そのとおりです。実は、プロとは、そう
いう経験と失敗を、何回も(少なくとも百回は)超えてきた人を
言うと思うのです。
23.〔反応〕児童の反応が悪いのは、多くの場合、発問が悪いから
です。①指示する内容がはっきりしていない。
A.声が小さい。
B.ごてごてしている。
C.述語(主語)がない。
D.指示範囲が曖昧である。
24.〔討論〕見ていても、だんだんと良くなるのが分かります。さて
ここで、授業の基本的な構え、在り方を述べてみようと思います。
それは、「授業は、討論の形になることを、憧れる」ということ
です。ある一つの、本質的な内容の理解に至るには、討論の形が、
望ましいのです。幾つもの子供の意見が出て、その中から一つの
ものを探していく、これが最高の形です。したがって、そのため
には、発問が、一時間の授業に耐えられる本質的なしっかりした
ものではなくてはなりません。「一〜十までの数を幾つかの集合に
分けてみよう」などは、かなりいいものです。これだけで、一時間
はできますから・・・・。
25.〔指示〕一年算数、「隣の人とどちらが多いか予想を立て、ノート
に書いてから、実際に比べなさい」の指示が行き渡らなかった
のは、興味あることでした。
A.指示内容に問題がある。
(ア)指示内容は、三つも含まれている。
(イ)限定がされていない。〈比べる〉は、曖昧である。
(ウ)予想、ノート、比べる(実験)のどれかが習熟されて
いない。
B.指示方法に問題がある。
(ア)言葉だけで伝えようとする傾向がある。例、隣の人と・・・
ノートの書き方。
(イ)全体が理解したと確かめないで進むきらいがある。
(ウ)発問(言葉)が安定していない。
C.そのほかの条件がある。
(ア)一年生には無理である。
(イ)その日は、何かの事件があった(先生たちがきている)。
(ウ)日頃からあのようである。
(エ)日頃はほかの方法(きつく叱るなど)で集中させている。
26.〔繰り返し〕急ぐと手抜きとは違います。ドリル(繰り返しの
練習)をしながら、分かる子もいる、ということです。説明だけで
分からなくても、練習してくうちに分かる子がいるということ
です。
27.〔形式的な授業〕A実習生の授業の欠点は、頭の中だけで公式の
展開で授業できると考えたことです。
・円の公式を理解する目標から考えれば、分かった子は、まず五名
程度と思えます。
・「半径×円周÷2→円の面積を求める式を説明しなさい」という
問題は答えられない子が大半でしょう。
形は整っていましたし、よく準備もしたとも思いますが、授業の
内容はひどく駄目だと思います。形式的な授業の代表と思えます。
28.〔リズム〕指示する内容が前と比べて、とっても安定してきま
した。すっきりとしてきました。もう少し、リズムがあってもいい
と思います。身ぶり、手ぶり、声の調子、そうしたことをする
ことによって、単調さから逃れられます。
29.〔授業〕研究授業は、S君が今までやった授業の中で一番良かった
と思います。とにかく、「授業」として、考えられるものでした
から・・・。半海水魚について、どうすればいいのかを聞いた
とき、子供が詰まりました。君は、子供の考えを出そうと、必死
でした。あれが、授業なのだと思います。ああいうことこそ、授業
の中心なのです。教師と子供の戦いです。子供の意見が出なかった
のは、主として、君の発問が「安定していなかった」ためですが、
そういうときに、どうしたらいいかは、あのような場に直面して
身体で学んでいくほかはないのです。それ以外は、第二義的な問題
です。ただし、形式的すぎる面があります。入御の本筋を離れた
所で、素人っぽく、幾つかの質問”どちらの輪をAにしますか?”
などをしたことです。授業の本筋を外れたそうしたことは、学習に
とって、害の方が大きいのです。授業全体が、ぐらつくからです。
30.〔授業の方針〕算数の授業で、Mさんのことが書いてありますが、
そこから明日の授業の方針を考えているのもよいと思いました。
授業とは、そうした一つ一つのことを考えて組み立てるのだと思い
ます。だから隣のクラスと全く同じになる授業は、ありえないの
です。子供一人一人が違うからです。
31.〔具体物〕言葉だけで教えようとするから、難しいのです。
具体物を準備するのです。
32.〔演技〕学芸会運動会の演技はそれぞれ同じですが、演技の
内容は次のことに規定されるみたいです。
(A)教師はどれほど高い質を、自分の頭に描けるか。
(B)それを伝える方法(指導技術)をどれほど身に付けているか。
例えば、「みんな、みてみて、みてみて」というセリフを言わせる
とき、四つの「みて」を全て違えて表現させることが必要だという
ことです。
向山洋一先生の論文「授業の原則」『教室トークライン』2016年
11月号より引用。