5 ヨーロッパの自転車事情

初めて旅する前に心配したことのひとつに、自転車が故障した時、現地で的確に対応してもらえるかということがあったが、いろいろ体験して心配ないことが良く分かった。

自転車が交通手段のひとつとしてきちんと交通体系に位置づけされているので、自転車屋はどんな街でも容易に見つかるし、スポーツタイプの自転車も当たり前なので、サイクリストにとっては、むしろ日本国内よりも便利と言える。

実際にブレーキシューの交換、チェーンの緩み解消、リムのフレ調整など何回もお世話になったが、どの自転車屋も信頼して任せるし、メンテナンス費用もリーズナブルで作業も親切丁寧である。

1 自転車のメンテナンス

普段、もっともお世話になるのは空気圧の調整であるが、どこの店でもサービスで空気を入れてくれる。コンプレッサーを使うところもあれば、普通のエアポンプを使うところもあるが、ほとんどは店のスタッフが空気を入れてくれる。それも一度だけウィーンの自転車屋で1€を払わされたがそれ以外はみんなタダで!

ロマンチック街道で福岡のサイクリストに出会った時、彼の自転車は車に追突されて後輪部分がひどく損傷しており、見たこともないような損傷ぶりだったので果たして上手く修理できるものかと思ったが、凄腕の自転車屋さんだったのか、そんな自転車でもその日のうちに修理され、翌日にはアムステルダムに向けて元気に旅立っていったことにも遭遇した。

どの街にも自転車屋さんはあるので積極的に空気を補充しに立ち寄ったり、道を尋ねたりしたら良い。

5-2 余裕がいる空港や駅での時間

常にゆとりのある気持ちで旅をしたいが、特に空港や駅などでは時間の余裕を十分に持ちたい。

自転車を持って飛行機や鉄道に乗る場合、普段の旅に比べると色々な場面で思わぬ時間がかかることがあるので、あらかじめ余分に時間がかかることを想定して早めに動く方が良い。

駅やロビー構内を移動する場合でも、自転車を引いていると思うような速さでは歩けないし、別の階に移動する時にはエレベーターが必要になり、所在を探すだけで時間がかかることもある。

もしエレベーターが見つからなければバッグ類と自転車を抱えて複数回階段を上下しなければならないことにもなる。

さらにラッシュの時などは他人の迷惑にならないように行動しなければならないだけでなく、人ごみの中では自転車を伴っては本当に動きづらいものである。

駅でキップを買う時には、その前に自転車を駐輪する場所を探すのも一仕事になる。

また、飛行機へのチェックインは自転車などの特別荷物の扱いカウンターが別になっているために余計に時間がかかるのである。

早めに準備を済ませて余裕を持ってくつろぐか、暑い汗と冷や汗をかきながら慌てふためくのか選ぶのはあなたであるが、どちらが良いかは明らかなものである。

5-3 列車の利用

キップの購入

鉄道のキップは基本的に大きな駅では近距離キップは販売機で、中長距離キップは窓口で買うこととなる。

また、国を越えて走る国際列車が運行されている駅では国内、国際用窓口が別の場合もある。

支払いも多くの場合、窓口だけでなく券売機でも現金以外にクレジットカードでも可能だ。

券売機は便利なものだと思うが、正直旅人にとっては表示が理解しにくく余り使いたくないものである。

私は何度チャレンジしても、券売機で自転車用キップがうまく買うことができずに、途中まで操作してギブアップと本当に苦手なものだ。

だから面倒でも窓口で買えるのであればそちらで買うこととしているし、券販機で買わなければならない場合には、駅員を呼び止め操作してもらうか、地元の人を呼び止めて行き先などを伝えて代わりに買ってもらうこともある。

長距離キップは早めに買うことをお勧めする。

特に自転車を持ち込む場合、自転車の積載スペースの予約が満杯で乗れないことがあるので、スケジュールが分かればキップは早めにとっておきたい。

また、通勤時間帯には自転車積載ができない区間があるなど、知らない規定があるので早めに駅で確認したい。

自転車の持ち込み

ヨーロッパでは列車への自転車持ち込みは当たり前のことで、日本のように自転車を分解して輪行袋に入れる必要もない。

列車の編成には自転車が積み込み可能な車両が必ず付いており、積載できる車両の車体やドア付近には自転車のマークが記されている。

何両目に自転車の積み込み指定車両が編成されているかは列車によって違うので、入線してくる列車の表示を確認して載せることとなるが、少々定刻を過ぎても車掌は自転車の積み込みを終えるまで見守っているので極端にあせって行動することはない。

また、プラットホームが日本と違って必ずしも車両の乗降口と同じ高さにあるとは限らない。

プラットホームが低くて、列車と高低差がある時には自転車とキャリーバッグを別々に積んだ方が楽である。

車両によって列車内の自転車スペースと積み込み様式も様々である。

両開きの大きな自転車搬入ドアと専用スペースを持った車両、2等車両の半分が跳ね上げ式の座席を配した自転車スペースに充てて、自転車を載せて傍らに座れる車両、車掌室に隣り合って、壁面のフックに前輪を引っ掛け、立てたまま収納する鍵付き専用スペースがある車両、総二階の列車の入り口付近を自転車スペースに使っている車両、自転車のマークは付いているが自転車の専用スペースなどは全く、人が通るたびに自転車を引き寄せないと通り抜けできない車両など等、多種多様なスタイルがある。

また、幾ら混んでいても自転車を列車に積み込むことは当たり前と受け止める文化のためか、自転車を積んで混み合っても乗客は協力的で寛容ある。

自転車用のキップも様々ある。自転車のハンドルに取り付けなければならないタイプもあれば、人用のチケットと同じで持っており検札の時に見せればよいものもあればサインが必要なものもあるので、キップも楽しんで眺めたい。

唯一自転車を乗せられない列車がICE(インター・シティ・エクスプレス)であり、これは新幹線「のぞみ」に当たるものである。

5-4 自転車道

自転車先進国らしくドイツ、オランダ、オーストリアなどの国では日本とは雲泥の差があり、自転車用の道路整備は遥かに進んでおり、車だけでなく自転車も交通手段の一つとして体系化された価値観が具現化されている。

通勤や普段の生活で使う街中の主要道路は自転車と車、歩行者との通行帯区分が明確にされている。

自転車専用に作った道もあれば、ペイントで歩行者や自転車走行帯と区分されただけのものあるが、事故が起こりやすい交差点には自転車用の信号機はもちろんあるし、右左折用の自転車レーンもペイントラインか別の色にして分けられている。

両サイドの赤い舗装が自転車用

駐車スペースも事故を誘発したり、自転車通行の妨げにならないように整備されている。日本と同じように自転車レーンが駐車スペースと車道の間にある場合の他に、駐車スペースと歩道の間に自転車レーンが作られている場合もあるが、駐車中の車に進路を妨害されたり、車を避けるために自転車がふくらんで走ることはなく、安全かつ安心である。

郊外に出ると自転車道はいちだんと快適になる。

主要道路には必ずといって良いほど幅広い自転車道が、これまた幅広い緑地帯で車道と自転車道を区分して一段と安全に走れる構造になっている。

また、街の名前と距離を表示した自転車用のルート案内も各所にあり、その道を初めて走る人にもやさしい限りである。

車の通行量に違いがあるので一概に言えないが、日本であれば片側二車線の車道を作るほどのスペースが、片道一車線の車道と贅沢過ぎるぐらい幅広い自転車道に充てられている。

片側二車線道路の場合、歩道側レーンが常時バスとタクシー専用のレーンになっており、そこは自転車も走るれるように区分されており、専用レーンのように爽快に走れる。

また、同時に自転車の位置付けに対する考え方も見えてくる。

ダート道 川沿いや森の中を走る道の中には自然豊かな環境にふさわしいように意図的に舗装しないでいるのであろうかダート道があり、ドイツやオーストリアでは幾度も走っている。

一口にダート道と言っても、ぬかるむような粘土質の道から、しまった砂礫質のような道まで様々ある。

雨天や雨上がりの川沿いのダートは時にはぬかるみ、でこぼこしていて走りにくく、思うようにスピードは出せないが、緑に囲まれた環境にマッチしてそれはそれなりに良いものである。