自転車旅行9.21 イップス・アン・デア・ドナウ⇒ヴァイセンキルヒェン

9月21日(曇り)

from Ybbs an der Donau to Weisenkirchen in der Wachau

◆メルク修道院

この日は先ず25kmほど先にあるメルク修道院を見物する予定で、昨日渡ったドナウ川右岸沿いをイップスからそのまま直進することにした。街を抜けドナウ川に流れ込む小川にかかった橋を渡り左折すると、小路はのどかな耕作地や木立の中に伸びている。清々しい空気に包まれた朝方は往来する車もなく気持ち良く走れる。気分が良いので急ぐ訳でもないのにペダルを回す足は速くなる。また、絶好のシャッターチャンスを見かけると、その度に自転車を止め、秋なのに黄色い花を一面に咲かせた菜の花畑やその先の山の上にある城のような景色を眺め田舎道を堪能した。一時間半ほど走ってメルクに着く。メルクは二度訪れているが修道院の内部見学はしていなかったので三度目の正直で今回は十分に時間をとって見学するつもりでいた。

メルクへの途中に菜の花畑と山頂に城が望める。また、リカベントを組み合わせた二人乗り自転車が過ぎて行く。

メルク修道院はベネディクト会派の修道場であり、2000年に登録された世界遺産“ヴァッハウ渓谷の文化的景観”の要件のひとつになっている。ドナウ川沿いのメルクの街の高台に黄土色と白色に彩られたバロック様式建築の威容の修道院で必見と言われている見所は豪華な調度品や天井のフレスコ画が描かれている大理石の間や図書館であるが、個人的にはテラスから眺める景観がお奨めである。そしてこの日で一旦スタートから一緒に走ってきたYajiさんと別々に行動することにした。Yajiさんは初めてのウィーンなので日数をかけてしっかり観光したいと考えているのに対して、三度目の訪問になる私はウィーンは主なところをざっと回って、余った時間でバラトン湖方面に走ってみたいと考えていたので、お互いが夫々に自分の望みに応じて走ることにした。

ユーロヴェロ6号線の表示がメルクを示す表示の前で一休み。西から進むに連れて修道院の姿は段々と大きくなってくる。

メルク修道院のテラスからは走ってきたイップス・アン・デア・ドナウ方面が眺められる。

◆"ヴァッハウ渓谷の真珠“デュルンシュタイン

メルクから下流のクレムスまでの約36kmの流域はヴァッハウ渓谷と呼ばれ、全長2800km余りのドナウ川流域の中でも最も美しいエリアである。途中にはシュピッツ、ヴァイセンキルヒェン、デュルンシュタインなど小さいけれど美しい街々があり、中でもデュルンシュタインは“ヴァッハウ渓谷の真珠”と呼ばれるほどの美しい街である。前回の旅では先を急ぐ気持ちに加えて、素晴らしい街であることを知らなかったので単に通過しただけで帰国後大いに悔しい思いをしただけに今回は時間をかけて街歩きしようと考えていた。しかし、デュルンシュタインの街は人気の観光地なので予約なしでのホテル探しは難しいか、確保できても宿泊費が高いと予想し、手前の街ヴァイセンキルヒェンに泊まり、デュルンシュタイン観光には片道5kmを自転車で往復することにした。

ヴァイセンキルヒェンとデュルンシュタインの間には聖ミカエル教会や前にも紹介したことのある花で美しく飾られた警察署がある。

デュルンシュタインの目抜き通りと色鮮やかな街のランドマーク・聖堂参事会修道院教会

街の東端には城壁が見える。ホイリゲは真っ白な漆喰で塗られ印象的だった。

宿を確保して直ぐに自転車を走らせデュルンシュタインに向かうと山の上にデュルンシュタイン城の廃城が見える。前回街のお爺さんから十字軍遠征の途中で囚われたイギリスのリチャード獅子心王が幽閉された城の話を聞いたことを思い出し、街歩きだけでなく山頂の廃城にも登ってみようと思い立つ。街に着いてまず目抜き通りを歩く。目抜き通りと言っても車がすれ違えないほどの道幅であり、道の両側には瀟洒に飾った土産物の店や地元ワインを振舞うホイリゲやレストランが並んでいる。観て歩く途中からは目抜き通りを外れ坂を下ってドナウ川の川辺まで下りる。川沿いでは青と白色の外壁が実に美しい聖堂参事会修道院教会や川を行き交う観光船を眺めのんびり過ごす。そして再び街に戻り、通りを横切ってデュルンシュタイン城に向かう。城への道は登るに連れて頭上には崩れた城の廃墟が大きく迫り、眼下にはドナウ川と山や森が織りなす緑の眺望が拡がって来る。ここまで来るのに一汗かいたが絶好の眺めもリチャード王幽閉の歴史の感慨に浸る想いも予想以上に思い出深いものになった。

山頂のデュルンシュタイン城址とそこから眺めたデュルンシュタインの街とドナウ川

◆四つ星ホテルのディナー

ドナウ国道沿いのヴァイセンキルヒェンの宿代は専用のバス、トイレが室外にあるとの理由で驚くほど安かった。室外にあると言ってもほんの数m先の近さで別段不便を感じることもなく、むしろ“安くてラッキー!”と思えた。思いもかけない低予算で泊まれるならば普段は慎ましく摂る夕食なのだが、この日は浮いた分を使ってちょっとお洒落な四つ星ホテルのレストランで食べることにした。独りでの夕食はちょっと淋しいものでもあるが隣に座っているドイツ人の老夫婦が日本人かと話しかけてくる。そして日本人と分かると知っている限りありったけの日本語を繰り出して“こ(ん)にちは”、“さよなら”“ありがと(う)”など片言で話す。そして一しきり喋り終えると酔いも手伝って気分良くご帰還された。私も勘定を済ませて帰ろうとすると今度は奥の席から若いカップルが私の席まで来て一緒に話をしようと言ってきた。どうやら先ほどのドイツ人夫婦との会話から私が日本人であると判断したようであった。二人はスイス人でルツェルン湖畔に住む建築家で二年前に長期休暇を取って東京、箱根、京都、大阪、奈良、高山・・・と巡り、すっかり日本の良さを知り、虜になってしまったと言う。彼らから日本に関して次から次へと質問がぶつけられ、スマートフォンの写真を見せられ話は大いに盛り上がり三人はどんどんヒートアップした。話に夢中になっているとスタッフから閉店時間を大幅に過ぎたのでお帰り願いたいと申し訳なさそうに言ってきた。我に戻って時間を確認すると閉店時間を大幅に過ぎた11時前だった。結局延々二時間半話し込んでいたが時を忘れ楽しいひと時だった。(走行距離 67km)

美味しい夕食だけでなくスイス人のご夫婦と時間を忘れて話し込む思い出深いひと時だった。

メルクからクレムス間のヴァッハウ渓谷はドナウ川流域の中でも一二を争う景観を誇っている。修道院だけでなく古城もあり、小さいけれど美しい街々も点在し見ることが飽きない区間である。

自転車旅行9.22 ヴァイセンキルヒェン⇒ビーザンベルク