自転車旅行9.15　ハルシュタッターゼ⇒エーベンゼー

9月15日（晴れ）

from Bad Goisern am Hallsttersee to Ebensee

◆早朝ハルシュタットへ

山に日が昇る前に散歩に出ると辺りは静寂とひんやりとした空気に包まれている。またハルシュタットの方角にある山はまだ薄っすらとした暗さが残っている。ウインドブレーカーを着込めば良かったと思うほどの冷気は寝起きの頭をすっきりさせてくれる。

ホテルの周りを散歩して朝食を摂る。いつものようにバターを厚く塗ったライ麦パンにハムとチーズ、それに新鮮な胡瓜をたっぷり挟む。いつも思うのだが決まった食材でシンプルなサンドイッチを作るのであるがどういう訳か旅先での食は進み、美味しくいただく。

食事を済ませ早々に走り出す。行く先に見える山の谷間は昇りきらない陽が斜め前方から差すので深くくっきりと刻まれたように見える。そしてハルシュタット湖畔まで来ると山蔭から差し込む陽ざしが湖面を眩いばかりに光らせている。写真に収めようと試みるが逆光なので上手く撮れない。眩い中にきらきらと光る湖面の美しさはその場に立った者だけに観る権利が与えられた絶景だ。対岸の山の頂から差し込む陽の光と輝く湖面を見ながら進む湖畔沿いの道は通る車もほとんどなく、ただ鳥の鳴き声だけが聞こえる贅沢な時間を与えてくれる。湖畔の道を暫く走ると木立の間からハルシュタットの街が見えてきた。少し行っては街を眺め、また走っては眺め、だんだんと日が昇って明るくなる街の遠望を楽しみながら走った。

朝もやの中ハルシュタット湖沿いに進むと木立の間から遠く湖の右岸にハルシュタットの街が見えてくる

◆二度目のハルシュタット

ハルシュタットは訳せば“塩の町”が語源のようで古代ローマ時代の前から岩塩鉱山を生業にしてきた街である。ザルツカンマーグートの最も奥まった位置にあり、周りを高い山に取り囲まれ、前にはハルシュタット湖がある人口1000人足らずの小さな街で大自然の中の珠玉の街である。1997年に世界遺産に指定されて以来世界中から観光客が押し寄せるオーストリアでも有数の観光地である。

ちょっと遠くから眩く輝くハルシュタットも近づいて眺めるハルシュタットも周りのアルプスの山や湖と調和し、心に残る美しさがあった。

一度目に訪れた時には天候に恵まれなかったこともあり、出来ることならもう一度訪れたいと考えていたので、絶好の機会になった。夏のトップシーズンは過ぎているのに街は多くの観光客で賑わっている。湖岸沿いの狭い目抜き通り・ゼー通りを歩き、小さなマルクト広場で一休みし、広場から急坂を上って奥まった路地に張り付いた家並の間を歩きハルシュタットらしさを体感して回る。高台に行けばぎっしり立ち並んだ屋根越しにハルシュタット湖の景色が眺められる。

ゆっくり見て回った後は小さなOBBの駅行きに渡船で対岸に渡る。対岸の狭い船着き場は行く人と帰る人でごった返している。その人たちをやり過ごして朝来た道とは違う湖岸東側の道を戻る。サイクリング道は駅のホームを通って進む。駅のホームを通すという無理をして自転車道を付けるためだろうが、日本では絶対に考えられない。電車を待つ乗客のいる駅構内を自転車を曳いて通り過ぎ、対岸にハルシュタットを観ながら進む湖岸沿いの道は時には湖にせり出したキャットウォークになったり、思いがけない程の急坂が現れたりと景観に恵まれ変化に富んだ道だった。

街の対岸にあるハルシュタット駅への階段は乗降客でごった返している。また、駅のホームは湖畔沿いの自転車道の一部になっている。

ハルシュタット東岸の自転車道には場所によってキャットウォークが設けられている。

◆オーストリア皇室御用達の“カフェ・ツァウナー”

バートイシュルで一休みする。バートイシュルはヴォルフガング湖からのイシュル川とハルシュタット湖からのトラウン川が合流した地点に発達した街で“bad”が示す通り温泉が湧きだす保養地で、皇帝フランツ・ヨーゼフ一世と王妃エリザベートが出会い、婚約式を挙げた街としても有名なところである。

休憩するところは前回も訪れたオーストリア皇室御用達の“カフェ・ツァウナー”と決めていた。緋色のテント屋根に籐の椅子がトラウン川に面して配され、多くの人が名物のケーキを食べてコーヒーブレークを楽しんでいる。また、客たちだけでなく雀もケーキを楽しんでいる。人々の足下をケーキのおこぼれを食べに忙しく飛び跳ねている。そんな光景も楽しみながらゆっくりチョコレートケーキを食べ至福のひと時を楽しむ。（走行距離 ５４ｋｍ）