9月4日(晴れのち曇り)
from Schaan to St. Gallen
◆ライン川に沿って
日曜日の朝は多くのホテルでは朝食の開始時間はいつもより遅い。ここでもいつもより1時間ほど遅い朝食を済ませてからの出発になる。最初に街から西に向かいアルプスの山々を望むのどかな農耕地と森の間を抜けて進むとライン川の右岸に出る。そしてリヒテンシュタインは小さな国なので堤防道を30分も走ると国境を越えることになる。ここは三国が入り組んでおり手前右岸側がオーストリア領、対岸側はスイス領になる。私たちは広い河川敷の草っ原の真ん中に自転車道がずっと伸びているオーストリア側を走る。遮るものが何もなく左右に見える山の連なりも遠く低くなって行く。雄大な景色の中では気持ちも穏やかになり、ゆっくりとしたテンポでの走りが楽しめた。
シャーンの街を出る時に見えた山並みは刻々と色が変わっていった。
◆オーダーメイドの三輪自転車
ボーデン湖まで10kmほどのところで真っすぐ流れるライン川本流から離れて、大きく右に円弧状に回り込んだ三日月湖沿いに行く。サルガンスから不自然に思えるほど直線的なライン川は過去に河川改修され、本流だった所が今では湖として切り離されたのではと地図を眺めあれこれ想像できる。そんなことを想像しながら走る三日月湖沿いの道は鬱蒼とした林に囲まれ清々しい。ルステナウの下流にかかる橋でスイス側に渡りロールシャッハに向けて、しばらく走っていると今まで見たこともない二人乗りの三輪自転車が対向してきた。私の好奇心に火が付き一枚写真を撮り色々三輪自転車について聞こう、そしてもっとじっくり見ようと思わず手を挙げ止めた。聞くと隣に座っている息子さんが障がい者なので少しでも外出させようと2000ユーロで特注し作ったものだと言う。その話を聞いてカメラを向けるのを躊躇っていると一緒にと手招きし奥さんが写真を撮ってくれた。帽子とサングラスでお洒落を楽しみ満面の笑みでポーズをとり楽しそうに振舞う姿を見て私もほっとした。それにしても三人とも障がいを気にすることもなく明るく実にいい家族に巡り合えた。
障がいを感じさせない良い家族に出会い感じるものがあった。
◆自転車にやさしいロールシャハ駅
前回の旅ではボーデン湖は北岸のドイツ側を走った。北岸側にはプレゲンツ、リンダウ、フリードリヒスハーヘンなどの街があり、多くのサイクリストも走る云わばライン川・ボーデン湖サイクリングの表ルートである。しかし、今回は世界遺産のザンクト・ガレン修道院に行くのでスイス側にコースをとって走り、ロールシャッハからは鉄道でザンクト・ガレンまで行くことにした。
そしてロールシャハ駅では自転車を乗る人にとって格段に機能的な駅構造にお目にかかれた。ふだん自転車でエレベーターのない駅を利用する場合には荷物を付けたままの重い自転車を持ち上げて階段を上り下りするか、ホームの端にある小さなエスカレーターに載せて移動しなければホームに辿り着けない。ロールシャハ駅では駅舎から地下道を潜り抜け、プラットホームの上まで自転車に乗ったままで上れる位の傾斜の緩いスロープがあった。日常の足になっている自転車利用者にも便利なように設備が更新されるたびに設置されるのであろうが羨ましい限りである。
ロールシャッハ駅のホームへは自転車のままでも上がれるようにスロープが設けられている。
スイスの道標:自転車用の道標はEU域やスイスでは国ごとによって異なる。電車にも多くの自転車が乗っけられていた。
◆ザンクト・ガレン修道院の“アブラカダブラ”
八世紀に創設されたザンクト・ガレン修道院の最大の見所は附属図書館である。スイス最古の図書館で17万冊の蔵書を古い貴重な蔵書を誇る世界的な文化遺産のようである。そんな貴重な展示物を守るために写真撮影はもちろん禁止であるが、さらに足許にも細心の注意が払われ、入場口で大きくてフカフカの柔らかいスリッパ様のものを渡され、靴を履いたままで良いから、それを二重に履けと言う。収蔵物だけでなく床面などにも傷をつけない措置だろうが初めての経験だ。
図書館に入ると総てのものに目を奪われる。両側には床から天井までの高さに木製の書棚が並べられ、貴重な蔵書がびっしりと並べられている。太い金網でガードされて触れないが、豪華に装丁された多くの蔵書は手を出せばすぐに取り出せる位置にある。中央には幾つものガラスケースが設えてあり、ページが捲られた蔵書と英文の説明が添えられている。そして天井には豪華なフレスコ画が描かれ、まるで宮殿の館のような趣きである。ガラスケースに入れられた蔵書には説明書きが添えられ、幾つか説明文を読んだ中の一つには呪文“アブラカダブラ”の説明があった。子供の頃に手品のおまじないとしてよく聞いた言葉だったが、説明によるとマラリア除けの呪文だとあった。まさか修道院図書館でアブラカダブラという語にこんな歴史があるのを知るとは思いもしなかった。(走行距離 66km)
ザンクトガレン修道院