2022年 「わ」と「ば」の混同-富山の場合

富山の北日本新聞の子供向け紙面「ぶんぶんジュニア」の中での連載コーナーに、「富山の方言の特徴や魅力」をテーマとした文章の寄稿を依頼されて、今月から始めることになった。

いくつかの話題を考え、書きためてはいるのだが、なにせ読者が主に児童であるということが一番のネックで、悩ましい。難しい用語が使用できない点はもちろん、内容自体にも複雑なところには迫れないといったジレンマがあるのである。

ここでは、そのような配慮から掲載を諦めた項目の一斑「『わ』と『ば』の混同」を紹介させていただく。


  富山県の沿岸部の一帯では、かつて「わ」に対応する音節で、唇を摩擦して発音する[βa]の音が聞かれました。それは具体的には「わ」と「ば」の表記の混同として現れます。例えば、魚類の「鮫」のことを出雲方言での「わに」とつながる「わん」という語形が砺波市周辺に存在するのですが、それが氷見市では「ばん」に変形しているのです。また、魚津市周辺での罵倒語「お前ら」の「わりら>わいら>ばいら」も同様です。この点に関しては、1906(明治39)年、新聞『北陸政報』(富山市・北陸政報社)に載せられた「富山風俗方言百首」の中に、「ばた(綿)」「かば(川)」などの例を掲げて、「高岡市射水郡等の地方人は『わ』と『ば』と彼此転倒の語弊あり」との記述があります。ちなみに、射水市周辺で、便所を表す「かんしょば」が「かんしょわ」となったり、高岡市で、「お出で遊ばせ」が「おいだすばせ>おいだすわせ」となったり、また魚津市で、「あじことばらい(心配の種を絶つこと)」が「あじことわらい」となったりしているのは、「ば」を無理に「わ」に修正しようとした結果だと考えられます。

2022.4.5