2013年 金剛

張貼日期:Nov 01, 2013 7:22:1 AM

さわやかな秋空のもと、河内長野市に出かけてきた。金剛山地、和泉山脈を遙かに望む平静で美しい街である。市の生涯学習推進事業「河内長野地域学講座」での一環としての河内弁に関する文化講演を依頼されての出張であった。

講演のテーマは、「河内弁の世界~大阪ことばのうつりかわり~」とした。大阪ことばの変遷のなかでの河内弁の位置づけとともに、河内弁の外部評価(イメージのみに基づいた偏見)が定着した史的要因などについて述べた。

河内弁に関しては、かつて、『南河内ことば辞典:やいわれ!』(2001)という方言集を分析したことがある。これは富田林市立中央公民館の市民センターの講座に集った受講生の有志の方々が採集した河内の方言語彙を収載したもので、大阪樟蔭女子大学の田原広史さんが監修をしている。

その収載語のなかに、実は、「まっかぁさぁ(=怖い人)」というのがある。

「まっかぁさぁ」とは、日本降伏後の連合国軍最高司令官として日本占領に当たったマッカーサー(Douglas MacArthur)元帥のことであろうが、何故に「怖い人」なのであろうか。このような表現は他の辞書や方言集には見当たらない。私は最初、これは受講生の個人的語彙(idiolect)なのではないかと思ったのであった。

今回、講演のなかでそのことに触れた。質疑応答の際、聴衆の一人が、「こちらが決して逆らえないような行為をする人のことを指して、『あいつはマッカーサーだ』といった表現をする者が周囲にいた」と報告した。確かに河内にはこのことばが存在したのである。

では、なぜマッカーサーなのだろうか、という私の問いに、一人の婦人が手を上げた。そして曰く、「それはGHQの農地改革にかかわることなのではないでしょうか」、と。

そうか、と心から納得したことであった。これは、地域共同体として濃密な人間関係を育んできた土壌、かつ在村地主の多かった土地柄の、まさに河内ならではの表現なのであった。

2013.11.1