2015年 博物館

張貼日期:May 31, 2015 5:41:29 AM

「環太平洋の『消滅に瀕した言語』にかんする緊急調査研究」というプロジェクトに関わっていた頃のこと。アイヌの人たちが、「絶滅が危惧されている」とか「消滅の危機に瀕している」とかの表現を自分たちのアイヌ語に対して用いてほしくない、と表明しているという話を聞いて、少し複雑な、実は重い気持ちになったことがあった。

閑話休題

博物館学芸員の資格取得のための科目として博物館実習というのがあるが、奈良大学では、その実習の引率指導の一部は担当学科の教員だけでなく、他の学科の教員も関わることになっている。その役割分担として、かつて、受講生たちを天理大学の博物館、天理参考館に引率、案内したときのことである。

参考館の展示室では、「日本」と「世界」の文物がそれぞれ別領域のものとして展示されていた。そしてそこではアイヌ関係の資料は「世界」領域の方に分類されていたのである。その入り口で、ある女子学生が、私に向かって、「なんでアイヌが日本ではなくて世界の方に入っているのですか」と質問してきた。そこで私は、アイヌ民族の歴史やアイヌ語の系統をめぐって得々として語ったのであった。

それを聞いた後で、彼女が、「やっぱり私は日本人ではないのですね・・・」とポツリと言ったのである。

・・・しばらくの間、二人で見つめ合いながら沈黙の時が流れた。

そのとき、実は同じような感覚にひたった瞬間が以前にあったことを思い出していた。

それは、1996年の夏のこと。ハワイを訪れ、ハワイ大学の図書館で資料を渉猟していた時のことである。沖縄関係の資料を探していたのだが、「日本」コーナーの棚のどこを探しても1冊も見つからない。そこで、司書に尋ねたところ、「それはもちろんアメリカ領域の棚の方ですよ」という内容の英語で、事もなげに宣ったのである。

それは、沖縄が、琉球がアメリカの支配のもとに未だ置かれたままである、ということを、身をもって感じた瞬間であった。

2015.6.1