2006年 夏六月

張貼日期:Mar 05, 2011 5:37:56 AM

両親が共稼ぎであったので、幼児期には祖母と二人だけで過ごすことが多かった。(ちなみに、私の故郷には幼稚園が当時まだなかった。したがって、私は幼稚園というものを経験していない。)

そのころはいつも祖母のお尻にくっついて、ちょこちょこ歩いていた。春の山菜採りのときも、秋の通草狩りのときもそうであった。例のカルガモ親子の行進を見るたび、そこにその姿を重ねている。

あるとき、祖母が山の中腹にあった畑に私を引き連れて豆を植えに出かけた。それは、土に棒を刺し、そこで出来た穴に一個ずつ豆を植え付けていくという作業であった。私は畔に腰掛けながら、その作業を見つめていた。

しばらくして、祖母が突然に体をかがめるようにして嘔吐を始めたのである。私は不安にかられ、心配もして、「豆植えは自分がするから、早く家に帰れ。帰ってくれ。」と懇願したのであった。

そのとき祖母は、やや落ち着いてから、「お前はやさしい子じゃなあ。」と言ったのである。そのことばが何故か忘れられない。

そのあと一人で豆を植えたのであったか、一緒に家に帰ったのであったか、そのあたりの記憶ははっきりしない。ただ、そのとき、心細いながらも、夕暮れ時の淡い紅色の雲が空にたなびいているのを眺めて、何か心満たされるものがあったことだけは妙に脳裏に焼き付いている。

2006.6.6