2015年 幽閉

張貼日期:Jul 31, 2015 11:57:0 AM

祖母から、その晩年に、彼女が少女時代に体験した話を聞いたことがある。

それは、村の分限者であったある人物をめぐってのことである。奢りを極めていたその人物が、街方へ女遊びに出かけたあと、しばらくして病気に罹った。祖母に言わせると、「体がだんだんと腐っていく病」ということであったが、それはおそらく性感染症の一種であったのだろう。

村人たちはその病気の感染拡大を恐れ、村はずれの場所に急遽こしらえた小屋の中に彼を無理やりに閉じ込め、隔離したそうである。

祖母はその彼のための毎度の食べ物を運ぶ役をさせられたのであった。小屋の入り口の格子の下にその食べ物を置くのだが、その度ごとに、彼は涙を流しながら、「頼むから、ここから出してくれ」と懇願したそうである。

明治20年代初頭の頃の話である。

研究者になってから、村の高年層の人々に、この事件のことを聞いてまわったことがある。しかし、誰一人としてその顛末を知る人はいなかった。したがって、祖母の体験談は、閉鎖的なかつての村社会の実相の一端を伝える貴重な証言だと考えている。

関連して想起することがある。

それは、中国で、ある大学教授から聞いた話である。彼が子供の頃、文化大革命時、教員をしていた彼の父は(教養層ということだけで)捕らえられ、鉱山で強制労働をさせられていた。そして彼はその現場に父への弁当を届ける役をさせられていた。当時、父が罪人であると教え込まれていたので、悪い人間なのだと思い込み、恨みつつ、いつも弁当を飯場に投げ捨てるようにして置いて帰るのだが、その折ごとに父の目には涙があふれていた。その情景がいつまで経っても忘れられない、と。

2015.8.1