張貼日期:Mar 05, 2011 4:29:8 AM
かつて、母が、「長男が、祭りの夜、獅子舞が終わった後で、『みんなが輪になって踊る時、ショーイ、ショーイとはやすけれど、何だかあれは、大昔のシシを追う姿のようだね。(ここでシシというのはカモシカのことなのです。現在は保護動物ですが。)輪になってシシを追いつめていく形じゃないのかな。シシオイ、シシオイとはやすのが、ショーイ。ショーイになったのじゃないだろうか』などと言いました。」と記したことがあった(『越中五箇山ことば歳時記』桂書房、一九九二)。潜在的な民俗の記憶、ということに関する、私のそのような思いは今でも変わらない。
さて、ここでは「シシ」のことを書こう。「シシ」は、本来「肉」のことを意味する語であった(ちなみに「獅子」は別語である)。五箇山でも、「シシが付く」と言ったが、これは「肉が付いて太る」ことを表すものであった。なお、猪が「いのシシ」、また鹿が「かのシシ」とも言われるのは、「い(猪)」や「か(鹿)」の肉が食されていたことに由来するものであろう。ところで、方言では、猪を単に「シシ」と表現する地点が全国各地に存在する。また、鹿を単に「シシ」と表現する地点も同様、全国にある。しかしながら、カモシカを「シシ」と表現する地点は、埼玉県の秩父地方、岐阜県の飛騨地方、そして富山県の山間部に限られるようである。これらはいずれもが山岳部であることに注意したい。
2002.10.6