2020年  本当のこと

張貼日期:May 31, 2020 2:23:48 AM

コロナウイルス対応の緊急事態宣言で、外出自粛と各地への移動自粛が課されて、このところずっと籠居の日々を余儀なくされた。

マスメディアもコロナの話題ばかり、心配性の私には、コロナ禍のことを考えない日など無いような様で、心身ともに不調をきたしてしまった。自分の見立てでは「神経性胃炎」である。

そんな折、友人からのメールで、「読んでみたら、」と紹介されたのが、梶谷和恵詩集『朝やけ』(コールサック社、2019)であった。

早速にAmazonで買い求め、いま読み終えたところである。

本の栞に、コールサック社の鈴木比佐雄氏による解説文があり、そこでは、「梶谷氏の詩の特徴は、この世に存在することの不思議さからの感動や、家族や他者との関係で感じた真実……などを、誰よりも率直に自分の言葉で語ろうとする純粋さが、詩行やその行間から溢れ出てくるところだ。」と記されている。

なかでも、「私のおじいちゃんは/人を殺しました。……戦争をした人が/もっといやな人なら、良かった。」と述べる「ほんとうのこと」と題する詩は、心優しき普通の人(おじいちゃん)が徴兵によって殺人者にさせられる国家犯罪の恐ろしさを描き出していて圧巻である。

ただ、私が瞠目したのは、「組織の善悪」と題する詩である。冒頭で、

あの方がおっしゃるから、灰色は白で。

あの人が話しているから、灰色は灰で。

あいつが言っているから、灰色は黒で。

と掲げ、「『何』が正しいのか。/でなく、/『誰』の意思なのか。/それが問題。」と続ける。どこかの国の「あの方」のことば、「あいつ」のことばが想起されるではないか。ここに“ことばの気流”とも言うべきものを感じとることができるのである。何だか爽快な気分になった。気がつくと、コロナ疲れによる胃痛もすっかり治まっていた。

(2020.6.1)