2018年 ピジンとクレオール
張貼日期:Oct 01, 2018 1:30:54 AM
異なった言語を話す複数の民族が接触・交流する場合、お互いに意思の疎通を図るための操作をするのであるが、そこではさまざまな言語現象が生起する。その一つがピジン(pidgin)と呼ばれる混合言語の発生である。
その言語の運用においては、上層の(文化的に優位な)言語から大量の語彙が借用されて使われるのだが、音韻・文法など、基本的な部分では土着の言語(vernacular)が使われることが多い。
16世紀以降、西欧人がアジアやアフリカそしてアメリカ大陸を植民地化していく過程において、現地の人々と西欧人の間で、また現地のプランテーションで働かされた労働者たちの間で、さまざまなピジンが誕生した。
ところで、ピジンを話す人は、そのピジンの他に自分の母語(第一言語)も保有している。すなわち二言語併用者(bilingual)なのである。しかし、生まれたときからこのピジンに接して、ピジンを母語として運用する世代が存在するようになると、それはクレオール(creole)と呼ばれる言語になる。フランス語系クレオール、英語系クレオール、スペイン語系クレオール、ポルトガル系クレオールなど、世界中にはさまざまなクレオールが存在し、各地で今も使われている。しかし、それらの多くは欧米系の言語を上層(語彙供給言語)としたクレオールであり、日本語系クレオールの存在については近年までまったく報告がなかった。
しかし、2005年に、台湾の宜蘭県の山麓にある原住民族の人々の住む村で、初めて日本語を上層とするクレオールが確認されたのである。私たちは、これを「宜蘭クレオール」と命名して、その言語構造の記述を進めている。
(2018.10.1)
追記:先に紹介した宜蘭クレオールに関するドキュメンタリー映画の字幕に、このたび、毎日新聞社の協力を得て、日本語訳を付けました。ユーチューブで、「タイヤルのトビウオ」、および「台湾タイヤル族 :劉招萓さん『ニホンゴ』研究」を開いていただければ見られますので。
https://www.youtube.com/watch?v=4x8ssD8FeW0
(タイヤルのトビウオ)
https://www.youtube.com/watch?v=4ZsaZr1wpfE
(台湾タイヤル族:劉招萓さん「ニホンゴ」研究)