2004年 冬

張貼日期:Mar 05, 2011 4:51:5 AM

高校時代、デマチ(富山県砺波市)で下宿生活を送った。下宿先はある禅寺であった。

その寺の仏像が安置してある場所の裏側の小さな部屋が私の住まいであった。窓を開けると外は墓所になっていた。

庫裏にはネズミが棲息しており、机のなかに食べ物を貯蔵していたために引き出しの角をかじられたりもした。

ネズミの語源を、人が寝た後に出て物を盗むところから「寝盗」の義であると解釈した学者がいる。もちろん付会ではあるが、当時のわたしには真に迫った説に聞こえたものである。

あるとき、そのネズミを籠で生け捕りにした。太った大きなヤツであった。籠に入れたまま池の水のなかに浸けた。最初は静かにしていたが、突然はげしく暴れだした。あまりに苦しそうなので、籠を少し水面に出してみた。ヤツはそこへ顔だけを持っていって、ぜいぜいと呼吸をした。そしてその瞬間、ヤツはわたしを上目づかいに見た。哀願の眼差しであった。

わたしは籠を持ち上げたことを後悔した。しかし思い切って、薄目をあけて、水のなかに籠をふたたび深く浸けた。しばらく静かにしていたヤツは突然に跳びはねるように動いた後、沈んでいった。

そして果てた。

2004.12.6