2001年 冬

張貼日期:Mar 05, 2011 4:26:52 AM

冬には雪が降らないと落ち着かない。大学院の学生時代に住んだ仙台で初めて雪のない正月を経験したが、何だかしまらない思いがしたことを憶えている。冬になれば間違いなく雪が降り、春になれば確実に融ける、この繰り返しの中に住んでいたものにとって、冬になっても雪の降らないところがあるなどとは考えられもしなかったのである。

体の芯までしみこんだ、この雪国の風土の重みは、おそらく死ぬまで消えないだろう。その一方で、多くの人々にとって、雪がときには大きな災いとなることなど考えられないようである。日本列島の脊梁山脈を境にして日本人の半分は積雪地帯に住んでいるのに、なぜこれまでこの積雪地帯が人々の意識の表面に現れなかったのだろう。そこでは半年間も雪に閉じ込められる。そしてそこではその雪を乗りこえて生きのびていかなくてはならなかったのだ。雪は、あるときには家屋の倒壊、アワ(表層なだれ)といった恐ろしい災害をも引き起こす。

学生時代、夏の方言調査でお世話になった飛騨白川郷での、その家が翌年の春先に屋根雪の重みで倒壊した。下敷きになって亡くなった娘さんの声が収録されていた録音テープを、のちにご家族に届けたことがある。

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった……」という都会人の旅愁は、雪の重みにあえいでいる地元民に、あるときは空しくひびく。

2002.1.10.