2012年 半夏生

張貼日期:Jul 01, 2012 2:29:52 PM

昨年末、四国在住のある方から、理由を表す接続助詞「けに」と「きに」の新古とその語源について尋ねられ、12月27日付けで、次のような返答をした(一部改変)。

お申し越しの「けに」「けん」と「きに」「きん」ですが、「けに」類の分布の広さからすると、「けに」類が「きに」類より古そうですね。私のふるさと富山にも「けに」「けで」はありますが、「きに」類はありません。なお、「けん」は「けに」の変化形で、「きん」は「きに」の変化形です。語源は確かではないのですが、京都の周辺に理由を表す「かい」が見られますので、「け」のもとは「かい」ではないでしょうか。この「かい」が融合した形が「け」ではないかと小生は考えています。「かい」を祖形とする「け」に、助詞「に」を付加したものが「けに」なのではないでしょうか。たとえば、関西の「さかい」にも「さかいに」の形が存在します・・・

ところで、関西の「さかい」も「かい」も、この「かい」ではないだろうか(「さかい」の語源は空間を表す「境」に由来する、というのが通説ではあるが)。「さかい」は、近畿から北陸を経て東北へと伸びる分布域を持っていて、その分布模様は「さかい」の出現・流布の新しさを示している。ただし、その系統とされる東方の「しかい」や「すけ」の「し」や「す」を「さかい」の「さ」からの変化形とすることに対して私は違和感があって、この「しかい」こそが「さかい」の原形ではないかと考えたのである。「し」の語源は不明としても、それが「かい」の「か」の母音に引かれて逆行同化を起こし、そこに民衆語源も関与して、中央で「さかい<境>」の形に再編成され、新たに北東方面へと進出していった、と推定したのである。

折しも5月の上旬、畏友の工藤浩さんから、柳田國男に同様の見解があるとのお教えをいただく機会を得た。柳田は、シカイ、スケを基盤としてサカイが生まれたのではないか、と述べているのである(「そやさかいに」『方言』4-1、1934.1)。そして、兵庫県の但馬地方にもシケーが存在することを指摘して、これはサカイの外側に取り残された古い形の破片かと思う、とも記しているのである。私の想いは、遅まきながら柳田の想いと一致したわけである。

偶然とは重なるもので、先般、私のゼミ生で豊岡市出身の川畑早紀さんから、突然に、自分の郷里では理由の表現としてシケーと言うのだが、このシケーは一体何なのでしょうか、という質問を受けたのであった。

2012.7.1