2019年 大きい「お」と小さい「を」

張貼日期:Apr 10, 2019 4:6:46 AM

助詞の「を」について、その呼称には、各地にさまざまな言い方が存在する。青森県には“腰まがりの「を」”と称するところがある。秋田県には“鍵の「を」”と称するところがある。栃木県には“重たい「を」”と称するところがある。また、石川県には“下の「を」”と称するところがある。

さて、この「を」を“小さい「を」”と称するのは富山県である。ちなみに「お」は“大きい「お」”と称される。

かつて、この表現の由来について、ある研究会で私なりの説を披露したことがあった。「この表現は漢文を訓読するための手掛かりとしての、小さく書き入れる助詞‘ヲ’の文字、いわゆる訓点としての‘ヲ’を表す言い方に由来するものではないか」と。

そのとき、聴衆の一人から、「富山県では一般の人までが漢文訓読のことを知っているのですか。さすが教育県ですね。」と皮肉られたのであった。しかし、教育県であるかどうかは別としても、この呼称が教育の場を揺籃として県下に普及したと見ることに不自然性はないだろう、と思ったことである。

後に、偶然にも簑島良二さんの論攷(『とやま民俗』82、2014.9)を読む機会があり、そこには、「大きい〈お〉」と「小さい〈を〉」の表現について、

漢字「大・小」の訓読みによる旧仮名遣いの表記「大川(おほかは)・大村(おほむら)」と「小川(をがは)・小野(をの)」を踏襲していることになる。

と記されていることに気づいたのであった。私は思わず膝を打つとともに簑島さんに脱帽したのである。簑島さんとはその後メールを通して親しくなった。

その簑島さんの急逝の報に接したのは、1年前の2018年4月16日、台湾の大学での集中講義を終えて帰国便を待つ台北空港のラウンジであった。何気なくパソコンを開いたところ、簑島さんと私が共にかかわっていた富山の新聞社からの緊急連絡が入っていた。一瞬目を疑った。老齢とはいえ、あんなにお元気そうだった簑島さんが、としばらくは信じることができなかった。

(2019.4.11)