2011年 大寒

張貼日期:Mar 05, 2011 6:17:55 AM

「江戸いろはがるた」での、「背に腹はかえられぬ」ということわざについて、質問を受けた。

「かえられぬ」の表記は、「代えられぬ」「替えられぬ」「変えられぬ」「換えられぬ」「易えられぬ」のいずれでも可、また、いわゆるラ抜き表現にもなっていない、など、そんなことはどうでもいいとして、そもそも「背」と「腹」とはどちらが大切なのか、ということである。

もちろん、取り立て詞をとる「腹」が大切なのは間違いない。しかし、つらつら考えると、たしかに変な言い回しではある。

ウェブサイトを見ていたら、おもしろいのがあった。

「腹は背の代用にならない」ってことですから、背は腹よりも格が上ってことですよね。そりゃ腹には支える骨がないから、背に持ってきたらグニャグニャして上体が折れてしまう。とはいえ、腹部には背中とは比較にならないほど重要器官がみっしり詰まっているんですよ。背中がなくても生きていけるかもしれないけど、背を腹の代わりにしたら人はたちまち死にます。昔の人だってそのくらいわかっていたから、ハラキリなんて手法を編み出したんでしょ。「背は腹に代えられぬ」だったら納得なのにねえ。

苦笑を禁じ得ないが、このような誤解を生み出すのもこのことわざの奇妙な言い回しの所以である。

ところで、上のコメントにおける「ハラキリ」には瞠目したのである。私は、このことわざのいわれの本来は「切腹」と関係しているのではないかと推測しているからである。

この表現の初出は、虎寛本狂言の「花子」に出てくる、「座禅の躰を致さぬにおいてはお手打ちに被成うとの御事で御座るに依て、 背に腹は替へられず、座禅の躰を致しまして御座る」のようである(『日本国語大辞典』による)が、ここにヒントがあるのではなかろうか。

2011.1.21