張貼日期:Mar 06, 2021 1:5:40 AM
かつて、祖母(明治16年生まれ)の所有語彙を記録したことがある。そして、その語彙の語種を分析した結果では、そのほとんどが和語であって、漢語の比率が極端に少ないことに驚いたのであった、漢語は仏教関係の語にほぼ限られていた。
明治期以降の標準日本語では欧米語からの影響が著しかった。外来語として取り入れただけではなく、その翻訳の過程で多くの新語が造られた。訳語には漢語が用いられることが多かった。欧米から入ってきた新しい概念のほとんどすべてを中国語の漢字を借りて訳した上で日本語の中に取り込み、日本語自体の近代化が図られたのである。
たとえば、「社会」「市民」「権利」「意識」「心理」「存在」「自然」などといった概念は、実はそのすべてが英語から取り込まれたもので、明治期における漢語仕立ての翻訳語なのである。これらは、江戸時代までの日本語には存在しなかった概念である。翻訳語によって、日本人は西洋の概念を自分のものとすることに成功したわけである。
「社会主義」、「共産主義」といった語も日本で作られたものである。また、「科学」、「人民」、「共和国」、そして「革命」などという語もそうである。それぞれ、science、people、republic、revolutionの訳語である。ただし、「社会」や「革命」などは、中国の古典にも見える語なので、中国側からすれば、それは新造語ではなく、日本においてなされた新しい意味の付加、と捉えられるであろう。
ちなみに、上の「権利」という語については、山田美妙の『日本大辞書』(1892-93)に「法律ノ語」として、
けんり 権利 [英語Rightノ訳] 字音。法律ノ語。身ニ備ヘ持ツ勢力。事ニ当タリ、其勢力ニ由ッテ、事ヲ処置スルコトノ出来ルモノ(義務ノ対)。
といった解説がある。この語はすでに大日本帝国憲法(1889)の二章において「臣民権利義務」として用いた例があり、後の日本国憲法(1946)一二条においても「この憲法が国民に保障する自由及び権利は」のように用いられている。ただし、『日本国語大辞典』(小学館)では、「英語rightの訳語として幕末頃から日本語として定着し始めたが、これは中国近代の洋学書である『万国公法』(1864)からの借用と思われる。」と注記している。
2021.3.7