2008年 晩秋

張貼日期:Mar 05, 2011 6:0:1 AM

晩秋の奈良は美しい。

住まいの近くに秋篠寺がある。季節の折々、その御堂に立つ「伎芸天(女)」に会いに行く。「伎芸天」のあの優しい微笑は、疲れきっているとき、心を癒してくれる。

しかし、ある時から、「伎芸天」がこちらの心の中を見透かしているように思えて、その微笑が何だか少し怖くもなってきたのである。

そういえば、かつて娘が、「お父さんはけっして口に出しては叱らないけど、私が何かをしでかした時の、あのニヤリとした笑いが私には一番こたえる」と言っていたことを思い出す。

こちらとしては、堂々と叱れるほどの自信もなく、また権威をふりかざしたくもない、というか、実はあまり具体的な何かを意図しているわけでもない、いわば困惑気味での非言語行動なのであるが、むこうにはそのような行動自体が何か自分の弱点を見透かされているように感じられるらしいのである。教え子たちからも異口同音にそのような評価を聞くことがあった。優しさのなかにクールなものを感じる、などと。

優しいといえば、いつぞや、韓国からの留学生K君から聞いた、彼の奥さんによる<評>のことがまた思い出される。

「先生はどうしてあんなに優しいの? 先生はひょっとしてヤクザじゃないの? 本当のヤクザは優しいっていうでしょう。」

嗚呼。

この頃、「伎芸天」のあの微笑は、あるいは私自身の心持ちと同類のものなのではないか、と思えるようになってきた。

2008.11.5