2009年 別れの3月

張貼日期:Mar 05, 2011 6:3:50 AM

かつて五箇山から冬期に平野部に出るには、細尾峠を越えて人喰谷という恐ろしい名前の渓谷を経由するルートと、庄川のいくつかのダム湖ごとにそれぞれ船を乗り継いで下るルートとの二つがあった。

高校受験のため下山するときに選んだのは、小船を乗り継ぐルートであった。

山峡のダム湖に注ぐ川の淵で船に乗ろうとしていたそのとき、山の上方でゴーッという音がするのが聞こえた。見上げると入道雲のような形をした大きな雪崩が一気に迫ってきていた。その瞬間をスローモーションのように思い浮かべることができる。

私は咄嗟に近くの岩穴をめがけて駆け込んだ。その間は数秒のはずなのであるが、私にはそれがとても長い時間のように感じられた。雪崩は、岩穴でうずくまっていた私のまさに目の前を轟音とともに通過した。突風で私の身体は空中に浮き上がった。

雪崩は向こう岸まで達し、川は雪と土砂で完全に埋まってしまった。乗船場は跡形もなくなり、船を繋いでいた綱がちぎれたため、船は川の中へさまよいだしていた。船を待っていた生徒も大人たちも川の雪水の中に放り出された。船長がその中を服のまま泳いで船にたどり着き、はい上がってエンジンをかけ、船をもとの位置にもどしてきた。引率の先生がその船にのぼり、立ち上がって、「みんな大丈夫かー」と大声で叫んでいた。

さいわい、みんなが無事であった。

もし、もう少し早く船が出航していれば、雪崩に直接に遭遇し、全員即死であったろう。数分の違いで命を落とすところであった。

人との出会いを、そしてその後の展開を思いめぐらし、生きる喜びを感じつつ感謝するたびに、このことを想起するのである。

2009.3.2