2007年 春四月

張貼日期:Mar 05, 2011 5:45:43 AM

「『去年来たツバクラが、また今年も来とるがかのい』と母に聞くと、『サーリャイなあ』と考えてから、『足に赤いカナ(糸)でもしばっておきゃ、分かろぞい』と言いました。」

いま患っている母が、若き頃の日々を綴った文章の一節。文中での「母」はわたしの祖母のことである。ここでの「サーリャイなあ」は、「さてなあ」、「そうだなあ」と少し考える気持ちをあらわすもので、最近、「立ち上げ詞」という術語で研究の課題になっているものでもある。

それはさておき、ツバメのことを「ツバクラ」と称する方言は各地に存在する。古典ではツバメが「つはくらめ」と表現されることがある。たとえば、『竹取物語』には、「つはくらめの巣くひたらば告よとの給ふを」のような用例がある。この「つはくらめ」の実際の発音形は「ツバクラメ」であったと思われる。方言での「ツバクラ」は、この「ツバクラメ」の「メ」が落ちたものである。一方、標準語での「ツバメ」は「ツバクラメ」の「クラ」が落ちたものである。

ふたたび母のかつての文章から。

「そろそろ巣立ちをするんだなと予感していたある日、学校から帰ると、母があずきの入った御飯を炊いていました。もち米で炊いた赤飯のことをオコワといいますが、うるち米にあずきの入ったのはアズキママと言いました。『ああ、ツバクラの巣立ちだな』とすぐわかりました。母は毎年その日になるとアズキママを炊いて祝ったのです。ツバクラも家族の一員でした。」

2007.4.5