2020年 日本の「家」制度

張貼日期:Jul 15, 2020 6:20:2 AM

和辻哲郎『風土』における、「我々は、家のアナロギーによって国民の全体性を自覚しようとする忠孝一致の主張に充分の歴史的意義を認める。」といった、いわば全体主義的立場に意義を認めるような表現に関連して、最近興味深く読んだ大藤修さんの『日本人の姓・苗字・名前』(吉川弘文館2012)での記述を、部分的に取捨して引用させていただくことをお許しいただきたい。

近代日本においては、「一君万民」の理念のもとに、国民は天皇の「臣民」として位置づけられたのであるが、個人を単位に国民編成がなされたのではなく、「家」を単位としていた。その「家」は戸籍上に設定されている。…

日本国家を天皇を家長とする「家」に見立て、国民それぞれの「家」における戸主=家長への孝を天皇への忠に有機的に結びつけようとする「家」(家族)国家観は、明治23年(1890)発布の教育勅語に示され、国民統合のイデオロギーとして鼓吹された。…

昭和21年(1946)11月3日に公布され、翌年5月3日より施行された日本国憲法は、第24条において新しい民主的な家族法の原則をうたった。「……配偶者の選択、財産権、相続……婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と。憲法と同時に施行された「日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律」は、憲法の精神にのっとって「家」制度の廃止を打ち出した。…

新戸籍法では、戸籍編制の単位が「家」に代わって、「夫婦及びこれと氏を同じくする子」となった。…

「家」制度における氏は「家名」であったが、それが廃止され、氏は理論的には個人の名称となった。しかしながら、戸主に代わって戸籍筆頭者が設置され、その配偶者は戸籍筆頭者と氏を同一にし、子は父母の氏を称することになっているので、「同一戸籍同一氏」となり、単なる個人の名称にとどまらない性格を備えている。

ここでの記述にもあるが、民法第750条における、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」といった規定そのものが、個人主義をうたう憲法の主旨とは相いれないのである。そして、それが近年の「夫婦別姓」訴訟における一つの障壁ともなっているわけである。

私は日本国憲法が公布された昭和21(1946)年に生まれた。その意味で日本国憲法とともに生育してきたと思っているのである。特に、憲法13条は個人の尊厳をうたい、「全て国民は個人として尊重される」と定めている。そして、個人の尊厳を守ることが最大限に尊重されるべきである、としている。この「個人」ということばを憲法から抹消し、単に「ひと」という表現にすべきだ、などとする主張も一部にあるようだが、そのような流れには抗したいと考える。

(2020.7.15)