2013年  毎度

張貼日期:Apr 01, 2013 11:26:1 PM

ある研究会で、韓国の社会言語学者、洪珉杓さんの報告を聞く機会があった。

洪さんは日韓の言語行動の比較研究をしている気鋭の学者である。このたびも日本人と韓国人の挨拶行動の違いがテーマとなっていた。そのなかに、往々話題となる日本人の挨拶の特徴とされる繰り返しの表現や行動に関しての言及があった。その一部を掲出する。

韓国語の「カンサハムニダ」や「ミアンハムニダ」はその場限りの感謝や謝罪のことばであり、過去とは関係なく未来志向の意味が多く含まれているが、日本語の感謝や謝罪の表現には「どうも」「いつもお世話になっております」「いつもすみません」のように過去の出来事を前提に何度も繰り返して使う表現が多い。日本では誰かにお土産をもらったり、あるいは誕生日のパーティーなどに招待されると、次に会った時は「この前はどうも」などのお礼のことばを言うのが常識とされている。

研究会後の懇親の折り、洪さんと二人で話した。彼によると、一度親密な関係になればそれは未来永劫の付き合い、と考えるのが韓国人であり、そこにおいては過去の出来事に対する儀礼的なことばなど不要、とのこと。

このことに関して、かつて拙書が韓国版に翻訳されたとき、「現代の日本人にはウエットな関係よりもクールでドライな関係の方が志向されている」という部分について、翻訳者が、それをプラス評価として理解することは全くできない、と述べていたことが思い出された。なお、日本人が過去の出来事に言及して挨拶するのは、その出来事が終わり次第、互いの関係は<初期化>される、との認識のもとに、でも決して忘れてはいませんよ、という気持ちを表明するための行動なのだ、と私は解釈している。

過去の出来事に対する<初期化>という点にかかわって、いわゆる歴史認識をめぐっての、「加害者と被害者という歴史的立場は千年の歴史が流れても変わることはない」とする朴槿恵大統領の発言の向きについても私なりに思うところがある。

2013.4.1