張貼日期:Nov 16, 2016 11:47:56 AM
岩波ホールで、映画「湾生回家」(Wansei Back Home)を観てきた。
半世紀にもわたる日本の台湾統治の時期、多くの日本人が台湾に渡った。「湾生」とは、その台湾で生まれ育った約20万人の日本人を指すことばである。彼らは、敗戦後、中華民国政府の方針によって日本本土へ強制的に送還されたのであった。
このドキュメンタリー映画は、歴史に翻弄され、不安を抱きつつ帰還せざるを得なかった湾生たちが、“ふるさと”台湾に里帰りをし、戦争によって引き裂かれたアイデンティティを修復する過程を、そして、彼らの熱い望郷の想いを、念入りにすくい取っている。監督はホァン・ミンチェン(黄銘正)である。
映画は台湾全土で16万人以上の観客数を動員したという。劇場に足を運んだのは日本統治時代のことを知らない若者たちが多く、湾生たちの台湾に寄せる懐旧の念に感動し、「湾生も自分たちと同じなのだ」と涙を流す者も少なくなかったという(映画のパンフによる)。
かつて、フィールドワークで、台湾の日本語世代の、日本や日本人に対する熱い想いを知った時、日本語世代の「片思い」だとみなしたことがあった。しかし、このたび、湾生たちの、台湾や台湾の人たちへの想いを聞いて、「片思い」は台湾の人たちだけではなかったのだ、と思い知った次第である。
この点にかかわって、酒井充子さんは、パンフのなかで、次のように記している。
それにしても、日本人の戸籍簿を戦後も保管し続け、「湾生出生戸籍謄本」の授与式まで開いた台湾と、戦後、日本の戸籍から外れたという理由で、戦場に行った台湾の人たちに冷たい仕打ちを続ける日本と、あまりにも違い過ぎるではないか、湾生も日本語世代も、残された時間はそう長くない。
まさに同感である。
2016.11.16