2006年 弥生

張貼日期:Mar 05, 2011 5:36:39 AM

私にとっての「はじめての買い物」、それは4歳か5歳のときであった。

家にあった1円玉の何個かを集め、それを手に握って、川向かいにあった駄菓子屋に一人で出かけたのである。店までは歩いて30分くらいの距離があった。店に入って、ただ「・・・頂戴」くらいのことしか言わなかったように思うが、店の人は私が手に握っていたお金を確認して、それに見合う分の飴玉数個を渡してくれたのであった。

社会経済というものをはじめて自分の身体で感じたと言うべきか、何か愉快になって、勇んで家に帰ったのを覚えている。この行いを祖母は誉めてくれた。

その夜、勤め先から帰ってきた母にもそのことを得々として報告したのだが、母はそれを聞くやいなや頭ごなしに叱りつけたのであった。そのときの(若かった母の)哀しそうな怒りの表情が忘れられない。「情けない。何でそんなことをするのか。欲しいものはすべて与えているつもりなのに。お菓子が欲しいのなら、なぜ欲しいと言わないのか・・・」と、涙を流しながらの抗議を繰り返したのであった。

私は泣きながら祖母の後を追った。「お菓子が欲しかったわけじゃない。自分でお金というものの働きを確かめたかっただけなのに・・・」と思いつつ、その思いの伝わらない寂しさと、それをことばで表現できない悔しさを身体中に充満させながら。

2006.3.3