2008年 初夏

張貼日期:Mar 05, 2011 5:56:54 AM

「母ちゃん」と叫んで、針仕事をしていた母の胸に飛び込んだ瞬間、踵にチクッときた。その瞬間をはっきりとおぼえている。踵に縫い針の端が刺さったのだ。針は足裏から中に入って見えなくなっていた。

針が血管をめぐって心臓に達するとおしまいだ、ということで周りは大騒動になった。翌日、急遽調達された農協のトラックに母と二人で乗せられ、山から下ろされた。そして、麓の城端町にある病院で摘出手術をすることになった。(このあたりの記憶はない。)

城端町にあった伯父の家でしばらく逗留することになった由である。

母に抱えられながら便所で用をたしていたそのときである。突然にグラグラッときた。その瞬間もまた鮮やかにおぼえている。母は私をつかみながら柱にしがみついていた。

1948(昭和23)年6月28日午後4時13分のことである。福井地震であった。

福井地震は、福井県北部から富山県西部にかけての一帯を襲った大地震である。震源地は後に縁を持つことになる福井県坂井郡丸岡町(現:坂井市丸岡町)の付近であった。マグニチュード7の激震で、死者・行方不明者は福井・石川両県で3,769名、福井平野では全壊率が60%を超えたという。日本最古の天守とされる丸岡城の天守閣もこのとき倒壊した。死傷者は戦後では阪神・淡路大震災に次いで多く、甚大な被害を出した大震災である。

「チクッ」と「グラグラッ」は、私の2歳4ヶ月のときの鮮明な記憶である。

ちょうど60年前のことである。

中国・四川省大地震のその後を案じつつ、2008.6.2