2018年 秋の気

張貼日期:Oct 23, 2018 5:45:13 AM

この時節になると、何だか哀切な情緒に浸ることが多くなる。

窓の外の景色を眺めながら、久しぶりに石田外茂一の小説『弥右衛門宛五箇山消息』を読み返している。以下は、ふるさと五箇山を舞台に、72年前、私の生後7か月の頃に書かれた部分の一節である。

メッキリ秋らしくなりました。朝夕はもちろん、昼間でも、ヒタヒタと秋の気が身に迫ってきますネ。日の光が弱まって黄色くなり、さらに赤味までおびてきました。太陽は赫赫と輝いてはいるンですけれども反射力がなくなって家の中は、外がキラキラ金色に塗りつぶされているにもかかわらず、ヘンに小暗くて森閑としていて、人の心を、沈んだアキラメのような寂しさに引き込んでいきます。そうして冬ごもりの用意に気をせきたてます。庄川の小波もイヤに白けて、落ち込む谷川の崖から、弓なりに枝垂れている栃の木の葉も、少し黄ばみはじめました。今朝、栃の実を一つ拾いました。今度風が吹いたら落ちますネ。これから毎朝、ウチの子供も、暗いうちに起きて、手籠を持って近間の栃の木の下をひとめぐりして来ないと朝御飯をたべられないのです。これは重要な主食の補助ですからね。

ではおやすみなさい。引き続き次便を執筆します。

昭和二十一年九月二十一日

学道人 外茂一

石田は後(昭和45年10月)に、この小説の原本を謄写した際の「あとがき」で、「この作品は散文詩のつもりですが内容は事実です。幻想的な部分も、少なくとも私が幻想したのだということは事実です。斎賀弥右衛門氏に宛てた実際の手紙がもとをなしています。(氏は)当時の旧制砺波中学校の先生です。」と記している。

旧制の砺波中学は、私の出身校「砺波高校」の前身である。

(2018.10.23)