2021年 「スコップ」と「シャベル」-ことばの移動

張貼日期:Jun 14, 2021 1:52:26 AM

スコップはオランダ語から江戸末期に借用された語(英語ではスクープ)。シャベル(=ショベル)は英語から明治初期に借用された語。同じ道具を表すが、英語でのスクープは比較的小さいものを指し、ショベルは大型のものを指す。

西日本では一般に小型の用具をスコップ、大型の用具をシャベルと呼ぶが、この体系は英語の体系に対応するものである。しかし、北陸(富山・石川・福井)、新潟、東北、北海道などでは、逆にスコップ〈大〉、シャベル〈小〉の体系となっている。これらの雪国では雪掻きの際に積もった雪をすくい上げるのに大きくて先端の平らなものが用いられる。そして先端の尖ったものを含めて大型のものがスコップと称されている。

雪国育ちの私にとって、スコッパ(=スコップ)は大きなものの総称、シャベルは園芸用などで使う小型のもののことである。かつて、ある新聞(大阪版)に、一人の幼児が砂場で友達と遊んでいて何かのきっかけで機嫌を損ねスコップを振りかざした、といった記事が載っていて驚いたことがあった。

一方、首都圏では、一般家庭での園芸用などにはシャベル、土木作業などでの土砂を掘る用具にはスコップと、位相によって使い分けられているようである。(ちなみに、工事現場での動力による超大型のものについてはパワーショベル、ショベルカーのようにショベルと称されるが、これはあくまで専門用語である。)

北日本の方言におけるスコップ〈大〉、シャベル〈小〉の体系が、東北からの労働者たちの東京移動に伴って東京へ流入し、首都圏の一部(工事現場など)での体系となり、それが周辺部へと波及したのではなかろうか(そう言えば、被害者を土に埋めて殺害した事件の犯人のことを「スコップ男」と表現したテレビドラマがあった)。

なお、日本産業規格(JIS)では、足をかける部分のあるものを「シャベル」、ないものを「スコップ」と規定している。ただしこれはいずれも大型のものについての規定で、小型のものについては言及がない。

(これらの内容に関しては、先日、NHK の番組『チコちゃんに叱られる』の中で話題にした。)

2021.6.15