2017年 俚言

張貼日期:Oct 31, 2017 2:53:40 AM

俚言とは、標準語では使われない、地域特有の単語や表現形式のことである。

俚言の消滅には、基本的に、次の2つがある。

1 ある俚言が次第に用いられなくなって、標準形式がそれに置き換わる。

2 ある俚言が忘れられたままになる。

そのプロセスの一斑を五箇山・白川郷の方言事例から示そう。この地における囲炉裏をかこむ、家の主人のすわる座席(上座)の名称は、1960年代には五箇山北部ではオクザ、五箇山南部と白川郷ではヨコザであった。

ヨコザは平安時代の文献にも見える古語で、その残存である。敷物などが横ざまに敷いてあることからの用語とのこと。ところで、当地のオクザの分布域では、このヨコザが主人の座から見て右側(横側)にある客座の意味に転移しているのである。その転移にはヨコ(横)の意味が関与したのだろう。

その後、1990年代に、私がこの地の中学生を対象に行なった調査の結果では、囲炉裏の座の名称を答えられない者が約85%もいた。現在では、対象物(囲炉裏)の消滅とともに、その名称もすでに姿を消してしまっているものと思われる。

最近、かつての方言調査の結果と現在の方言調査の結果とを対照し、俚言の分布域にほとんど変化がないことを捉えて、方言の波状伝播説を疑う論調がある。しかし、現在の老年層に囲炉裏の座の名称を訊ねたとしても、昔の方言スタイルを思い出して答えてくれるだけだとしたら、その分布域に変化など現れるはずもないだろう。消滅しつつある俚言は伝播するような勢いをすでに失っているからである。

一方、俚言に限らず、新語にエネルギーがあれば、それは勢いをもって周辺に伝播するはずである。首都圏で誕生した、若者たちの用いる、いわゆる「新方言」はまさにそうで、いま関東域に波状的に拡がりつつあることが確認される。

2017.11.1