2020年 「音階」とアクセント

張貼日期:Feb 14, 2020 2:5:3 AM

私は“音痴”である。したがって、カラオケが大嫌いである。

「歌ってください」と催促されて、音痴だからと最初は断っていたのだが、皆の順番だからと強請され、無理やり歌った結果、「やっぱり本当だったんですね。でもアクセントの研究もしているのに…」などと言われて、へこんだことがあった。

しかし、畏友の上野善道さんの文章(「人間の言語能力と言語多様性-言語に向き合う視点-」)に触れて、少しばかり安堵したのである。上野さんは現代の日本語アクセント研究の泰斗である。

アクセントが専門だと言うと、「音感が良いんでしょうね」とよく言われる。が、実は私には「音階」を捉える能力がない。いまだにドレミがまったく知覚できず、楽譜も読めな いのである。(中略)音階がまったく分からなくても、アクセントの把握は可能であり、逆に、音楽家ならアクセントが分かるとも限らない。音階の分かる人の方がアクセントも分かる傾向はあるとしても、別物と見る。

アクセント(を含む言語)は社会的なもので、その社会で育てば、個人の音感の良し悪しとは独立に誰もが同じアクセント(言語)の仕組みを習得する。「無アクセント」言語も、「アクセントで区別をしないという社会習慣」を後天的に習得したものに過ぎない。日本の有アクセント地域にも“音痴”はいるし、逆に、無アクセント地域でも音感の良い人はたくさんおり、合唱コンクールの全国トップレベルにはよく無アクセント地域の学校が顔を出す。

(嶋田珠巳・斎藤兆史・大津由紀夫編『言語接触』東京大学出版会2019 から)

(2020.2.15)