2011年 柊

張貼日期:Mar 05, 2011 6:18:31 AM

今年の正月明けもまた台湾・宜蘭の山中、アタヤルの村に出かけた。「宜蘭クレオール」記述のためのフィールドワークである。

インフォーマントがいつものように歓迎してくれて、今回は食事まで御馳走になった。メインはyapit (ムササビの類)の肉の煮付けであった。黒っぽい肉の塊に少し怯んだが、どうにか口に運ぶことができた。

もちろん、ムササビを食するのは初めてである。その薄黒くて柔らかな肉片を噛みしめながら、故郷、五箇山ではムササビのことを「バンドリネズミ」と称していたことを思い出していた(ちなみに、中国語では「飛鼠」)。

石田外茂一は『五箇山民俗覚書』のなかで、次のように記している。

60年前の記述である。

バンドリネズミ、これはムヽサビのことだが、これは冬の夜鳴き叫ぶ。ギャーという、いやな声で、吹雪の中ででも鳴く。毛皮は、紫色を帯びた毛の細かい、シットリとしたいヽ手触りだ。これの同じ大きさのをそろえて、つなぎ合わせて婦人オーバーの裏として貴重だ。つまり貿易品だ。これの生態は興味がある。大木の根元から幹をかき登って梢に坐っている。こヽからバンドリ(注)を拡げたような形に、手足の間に張った皮をひろげて斜めに飛び下りて行って別の大木の根元に達し、またその木の梢へのぼる。こんな風にして移動するのだ。飛行機ではなくてグライダーだ。狩人は月夜に出動して、梢に坐っているのを狙うのだ。銃には照準器の代わりに竹の筒をしばり付けてある。この筒をのぞいてバンドリとお月様とを一直線上に入れて散弾を放つ。こうすると必ず当たるそうだが、お月様を射つようでいやな気がすると言う者もいる。

(注)バンドリとは、茅や菅などの茎葉を編んで作る雨具、いわゆる「蓑」のこと。

2011.2.3