「線維筋痛症 手記」
42歳 女性
42歳 女性
2013年2月9日 自動車同士の接触事故に遭う。首、肩、胸、腰、腕が痛むのと不眠。左足の痺れ、吐き気、2日目から背中一帯が痛み始める。地元の整形外科を受診、血液検査、レントゲン、CTスキャン、MRIの検査を受けるが、異常は見つからず「頸椎捻挫」との診断。ソラナックスという薬を処方されたが効かず、リリカを処方される。それもほんの2、3時間眠れる程度でじきに効かなくなりやめてしまった。その後は治療法を求めてインターネットで同じ症状の人を探した。交通事故がきっかけで「線維筋痛症」を発症したという女性の投稿を見つけた。調べるとほぼ自分の症状と一致する。主に全身の疼痛、筋肉痛、不眠、重度の疲労、関節痛、身体のこわばり、痺れ、筋力の低下などだが、ほかにも不安感、冷感、灼熱感、眼精疲労、生理不順、頻尿、自分の場合はひどい便秘。
この病気は、医師でも知らない人がいるし、治療方法も決まっていないそうだ。トリガーポイントの痛みで確定診断するようだが、県内には診断してくれるお医者さんがいるのかどうかわからない。1か月経っても痛みは変わらず、歩くのは超スロー。横になると圧迫感、灼熱感が増す。腕に力が入らず自分で寝返りが打てない為、まんじりともせず時計を見つめる。一分ってこんなに長かったっけ。時々背骨を絞り上げられるような痛みもあり、ふいにナイフが刺さるような痛みもある。誰かが「体の活断層に亀裂が入ったような痛み」と表現していたけど言い得て妙だと思う。血管にガラスが流れているみたいというのもわかる。時々なにか引っかかる感じがザワザワして気持ち悪い。背中はどこも強張り、特に肩甲骨の間がキリキリする。胸骨全体と心臓の少し下あたりの奥の方がズキズキ疼く。痛すぎてブラジャーはつけられない。これが本当に自分の体なのか?と思う。脈が速く、ずっと走っているような感じだ。気を失いたいほど疲れているのに意識ははっきりしていて眠れない。疲れ果ててウトウトしても、突然心臓を鷲掴みされたようにドックンと脈打つから、ハッとして汗が噴き出る。肩回りが膨張して熱く、ピリピリひりひり一時も休まらない。でも風も吹かないのに寒気がして、髪の毛が逆立つ。骨が鞭で打たれたように痛み、じーんと後を引く。食べ物の消化も悪いので、重湯を舐める。それでも昼間は家事をしなくちゃと思うが、私の指は洗濯用のピンチにも負けるありさまだ。疲れて帰ってくる夫に家のことをしてもらうのが申し訳ない。この状態がずっと続いて、家族の負担になるのだけは嫌だなあ。ここ数年ずっと体調が良くなかったけれど、こんなにひどいのは初めてですごく不安。私のような平凡な人間が、まさかそんな珍しい病気になるとは。毎晩、気晴らしに嵐の曲を聴きながら、何か手がかりがないかと闘病系のブログを読んだ。
4月2日未明、あるブログから松本漢方クリニックのHPにたどりついた。明け方まで読み、自分の体に何が起きていたのかを知る。ヘルペスというと唇にできる痛いぶつぶつ、くらいの認識で、免疫についてだって今まで正しく理解していなかった。免疫が間違って自分を攻撃することがあるという世間一般の医者の言うことを鵜呑みにしてきたけど、この先生は免疫が自分自身の細胞を間違えることはないと言っている。やむなく自分の細胞を道ずれにウイルスをやっつけることがあるだけだ。そうだとしたら、免疫は完全に私の味方だということだ。今まではなんだか信用できないと思っていたから、もともといろんなことで自信がなかったのに、さらに自分不信になって不安だった。起きてきた夫に「ここに連れて行ってほしい。」とお願いしてすぐに出発。
受付で症状を書く。「たぶん線維筋痛症だと思います。」と添える。普通の医者ならそれを決めるのはこちらだ、とばかりに不機嫌になったりするなあ、と少し迷ったけど、正直に言ってみた。初めての鍼灸を受け、夫とお灸のやり方を習った後、診察の順番がやってきた。少し会話してから先生は「間違いなく線維筋痛症やね。あと慢性疲労もあるね。」と言った。拍子抜けだ。いろいろ説明してくれたあと「必ず治ります。あなた自身の免疫が治すんやから、安心してええからね。」と言ってくれた。パッと視界が開けたように感じた。採血した後、漢方薬と漢方風呂、そして抗ウイルス薬を処方してくれた。帰りの車中では「おもしろい先生やな。来てよかったんちゃう。」という夫の言葉に、私はもう治ったような気さえした。
その夜漢方のお湯に浸かる。いつもはお湯が肌を刺すように感じるのに、このお湯はまろやかで独特の匂いがして、とろんと眠くなる。そのあと漢方薬を煎じて飲む、というか舐める。味はアルコールなしの養命酒みたい。なんとこの後5時間寝た。こんなに続けて眠れたのは53日ぶりだった。翌朝目が覚めるとやはり痛い。でも眠れたことで回復する自信がついた。ご飯が食べたいけど、まだ入らない。頑張って薬だけは飲む。胃が痛い。2日目、寝ている間に時計の針が6時間ぶん動いていた。なんとも嬉しいことだ。少しずつ体に力が戻ってくるのを感じる。そして一週間後、夕飯の支度をしていると、帰宅した夫に「別人みたい。」と驚かれてしまった。鼻歌歌いながら野菜を切っておりましたけど?根菜はちょっと固くて無理だが、得意のキャベツの千切りなら大丈夫。そういえばこの間まで包丁握れなかったねえ、と笑う。痛みがなくなったわけではないけど、一番ひどい時の半分ほどなのですごく楽。家から近い整骨院で鍼灸をしてもらい、足とかできる部分は自分でお灸して、夫には背中の痛いところにしてもらう。さらに通院のために月一くらいなら休みをとるから、と言ってくれた。子供の学校行事でもあまり休まなかった人だけに驚いた。とにかく一緒にお出かけできるのがうれしい。おかげで5月中頃、まだ足は痺れており腹も背骨も痛いけど、1キロくらい歩けるようになった。ごはんが食べられるようになり、体重が増えてきた。
6月のこと、友達に会うのを楽しみにしていた日。朝から大不調。頭、首、肩、腰が痛み、悪寒、吐き気も加わって洗い物もできないまま横たわる。体の向きを変えることも、顔にかかる髪の毛をのけることもできず、息絶え絶え。気を失い、気がついたら目のまわりも痛くなっていた。ただ時が過ぎるのを待つ。翌朝、少し動けるようになり薬浴、お灸をして、そろそろと家事をする。首の左側がつったように痛いのと頭がぼーっとするので、何をしてもはかどらない。次の日、目が覚めると世界がスッキリハッキリ、よく見える。気分良くお弁当を作り、掃除、洗濯を片づけた。ギャップがありすぎるなあ。松本先生に聞くと、「それは免疫が上がったからや。」とのこと。これがリバウンドというものなのか。こんなことを何度か繰り返し、楽しみにしていた行事は参加できたりできなかったりしたが、徐々に動ける日が増えてきた。顔色も違う、ここ数年、風呂上がりですらひどい顔色をしていたのだが、血色が良くなっている。8月には通常運転できるほど元気になった。
しかし、私の調子がよくなるにつれ、長男の具合の悪さが気になりだす。強い頭痛で月に2回くらいは食事もとれないほどで、その都度学校を早退していた。それがさらに半年前から下痢も加わり、トイレに2時間以上籠っていたり、部屋を真っ暗にして痛みに耐えていたり。原因はヘルペスじゃないかと思い、松本漢方クリニックに連れていくことにした。血液検査の結果、やはりヘルペス抗体価が大きいことがわかる。私のがうつっていたのか。抗ウイルス薬と漢方の煎じ薬を処方してもらう。煎じ薬はとてもまずくてはじめは拒んでいたが、なんとか飲むようになった。受験で周囲が忙しくなる頃、せめて試験までに体調をよくしようと頑張った。
2013年11月、親子で診察を受ける。血液検査も2人分となるとなかなかの出費だ。治療にお金がかかることは承知の上だが、早くも医療費貧乏に陥りつつある。ストレスがこの病気を助長するというが、この問題は大きなストレスだ。抗ウイルス薬が1粒80円くらい。最初はそれで良くなるなら安いもんだ、と思ったけど何か月も続くとやっぱり高い。なんで保険が効かないのだろう。風邪だと保険が使えて対症療法の薬が出る。でもそれは、免疫を抑え込み、本来の治療を後回しにするということで、正しい治療は人間がもともと持っている免疫を手助けすること。なのに本当に必要な薬には保険が効かない。どういう基準で保険が効くものとそれ以外に分けているのかわからない。
12月になり、夫が「松本漢方クリニックに電話した?次いつ休もうか。」と聞いてくれたが「うん、そのうちするね。」と答える。今のところ私の状態はよくも悪くもなっていない。それはそれで不気味な気もするが、(たぶん痛みがない時にヘルペスが増殖してる?)とりあえず、子供に自分の分のベルクスロンを残してある。年が明けて2014年1月2日、私の実家にいる間、長男は久々に頭痛で苦しんだ。帰宅した後、両親は大きな病院で検査を受けさせろと言ってきた。断ったが翌日も電話が鳴る。やむなく奈良市内の少し大きな病院に連れて行った。血液検査とCTと血圧の変化を見る検査だった。脳に異常は見つからなかった。血圧の検査では「起立性調節障害」の可能性。うーん、ヘルペスが起こしてる症状だと思うよ。でも言わない。血液も正常。安心料を払って帰る。
1月下旬 松本漢方クリニックでお薬を郵送してもらい、また少しでも長くもたせようと目論む。年明けの10日間くらいで回復した長男は、試験のときも卒業式も元気に過ごせた。なんとか公立高校にも受かった。細々と治療を続けられる、と喜んだものの長男は漢方薬生活に戻りたくないようだ。かくゆう私も一度診察予約をいれたものの、たまたま夫の仕事が忙しくなりキャンセルしたら、そのままになっている。良くないのはわかっているが、長くほったらかした罪悪感があって、もはやきっかけなしには電話もできない。早くきっかけ来ーい、と思っていたらじきに来た。
5月の下旬から腕に冷感が出始め、ウォーキングの時、足の痺れというか浮腫みを感じる。やがて尿が出なくなり、久々に松本漢方クリニックへ。膀胱炎の薬と漢方で様子を見る。なかなか浮腫みがとれない。その後近所の病院で検査を受けたが異常はなかった。中性脂肪が高いですよ、とだけ。お医者が言うには、私が思っているほど浮腫んではないようだ。あくまでそんな感じがするだけみたい。眠れないし、老廃物が全身をぐるぐる回って出口がない感じで、とうとうこの世とおさらばか、と思うほどしんどかったのに・・・。動画サイトで漫才見ながら「ああ今まで私にかかわってくれたみんな、本当にありがとう。」と心の中でお礼を言ったのだが・・・。心がこんなに弱くても私の免疫は自分を見捨てたりしない。今は再び抗ウイルス薬の力を借り、なんとか上昇気流へ。
松本漢方クリニックで学んだこと。西洋学的医療で使う薬は人の免疫を抑制する。だから熱が出たのを無理に下げたりすると免疫を弱らせてしまう。加えてストレスに耐えようとして体が作るホルモンがやはり免疫を抑える。そうするうちに神経ではヘルペスウイルスが増えていき、皮膚の内側や筋肉にも出張しはじめる。そして楽しいことや嬉しいことがあると免疫が活動再開してウイルス発見、攻撃を始め体に症状が顕れるのだ。かつて私は、ビタミン類も含めて薬を飲まない人だった。20歳の時に急性肝炎で4週間と、その後は28歳で二人目の子を妊娠中、子宮口が3センチ開いているといわれ「お腹の張り止め」の薬が出された時。そんな都合のいい薬、あるもんなのか?と思ったが、医師に逆らいようもなく、2か月弱飲み続けた。陣痛が始まるのと同時に発熱した。翌年の春、最初の異常を感じる。夕日に当たっただけで、首から背中にかけて発疹がでた。痒くて搔いたら増えて全身ブツブツだらけ。2か月後、左目に異物感。瞼の裏にできものがある。眼科の点眼薬は効かなかった。そのうち下腹部左側、腸に針を刺したようなチクッとした痛み。秋には右胸にしこりを発見。マンモグラフィーは痛かったけど異常なし。翌年春、花粉症がひどくなり耳鼻科で薬をもらう。2回飲んだが眠くなるのでやめた。幼稚園の役員は、楽しみ過ぎて調子に乗り、夜寝ないでバザー品を作った。するとイベントが終わってからも寝付けなくなっていた。そして年明けからしつこい咳に悩まされる。マイコプラズマ肺炎で抗生剤を3週間。5月、めまい立ちくらみがすごい。自律神経失調症の診断。その翌年からパートにでるが、背中、お腹の痛みはひどくなる。胃カメラ、MRI、大腸の内視鏡検査をうける。が、結局わからず医者曰く「人間、年をとったらどこか痛むのなんか普通でしょ?」ムッ、それを言っちゃおしまいだ。2年後の子宮がん検診で「子宮頸がん0期です」と言われ、3か月ごとに検診を受けなさいとのこと。さらに乳がん健診エコーで「あなたの乳房は線維が多すぎますね。たとえて言うなら砂利道みたいなもん。腫瘍が見つけにくいから半年おきにおいで」とも言われた。なんで処置もしないのに検査ばかりしたがるの?と思いながら、結局、後で困るのもなあ、と通う。それ以外の自覚症状はもういいや、と放置。ただ市販の風邪薬はたまに飲んでいた。いつの間にか私にとって、普通に暮らすこと=苦痛に耐えること、になっていた。
知らない人が見たら「病院好きだねえ。」と思われるんじゃないかというくらい通ったが、私は病院が嫌いだ。よほどでなければあんな処で一日を無駄にしたくない。そのくらい痛かったからなのだ。でも行けば行くほど、わかるのは「原因がわからない」ということだけだった。今思えば、こうやって私は実に10数年もの間、ヘルペスウイルスを育ててきたことになる。そんな折、仕事場からの帰り道、どーんと車がぶつかって来て、衝撃を受けた。スタントマンってこんな感じなのかな、などと不謹慎なことを考えた。そこで一気に自分の免疫さんが目覚めたのかもしれない。相手は普通にいい人だった。正直とても感謝している。私の生活に変化をもたらし、治療のきっかけをくれたのだから。
まだ治る途中なので偉そうなことは言えないが、この病気で今この時も痛みを感じ、眠れない生活を送る人がたくさんいて、なんとかしてあげたいと思う。が、しかし、用心深すぎる性格なので行動にはうつせていない。なんせ免疫も預金残高も急にはあがらない。治るのに何年かかるかわからないのに簡単にお勧めできない。だからこそ保険適用になって、誰であろうとどこの病院でもこの治療をスタンダードで受けられるようになればいいのに、と思う。
私の二人目の子も幼いころから原因不明の腹痛持ちだ。私は家族に知らず知らずに同じ苦痛を分け与えてしまったことになる。できる限り早く治して、子供たちにもきちんと治療を受けてほしい、と思っている。松本先生のことは「俺のことをスゴイって書かんでええ。」と言われているからすごいとは言わないが、患者の心に寄り添ってくれる本当のお医者さんだ、と思う。治せなくては意味ないし、人間的にどうよって医者も大勢いる。治せて、しかも人の心に希望を与えてくれるお医者さんはとても少ないと思う。そういう意味で尊敬している。あと、話が面白い。鍼灸師さんは凄技だ。ついつい針が刺さっていることを忘れて、おしゃべりに夢中になり動いてごめん。最後にいつも漢方薬を荷造りしてくれるスタッフさん、ありがとう。あの小さな袋に小分けするだけでもそうとうな手間だと思う。まだまだお世話になります。