訓読:かれここにアメノウズメのミコトにノリたまわく、「このミサキにたちてツカエまつりし、サルタビコのオオカミをば、もはらあらわしもうせるイマシおくりまつれ。またそのカミのミナは、イマシおいてつかえまつれ」とノリたまいき。ここをもてサルメのキミら、そのサルタビコのおガミのナをおいて、オミナをサルメのキミとよぶコトこれなり。
口語訳:(事の後、天照大御神は)、天宇受賣命に、「この天孫の前に立って道案内した猿田毘古の大神は、彼の正体を明らかにしたお前が送って行きなさい。またその名を、お前の名としなさい」と言った。そのため、猿田毘古という男神の名を負うこととなり、女でも「猿女の君」と呼んでいるわけである。
訓読:かれそのサルタビコのカミ、アザカにいましけるときに、スナドリして、ヒラブガイに、そのテをくいあわさえて、ウシオにおぼれたまいき。かれそのソコにしずみイタマウときのミナを、ソコドクミタマともうし、そのウシオのツブタツときのミナを、ツブタツミタマともうし、そのアワサクときのミナを、アワサクミタマともうす。
口語訳:その(後)、猿田毘古神は、阿耶訶にいたとき、海で漁をして、比良夫貝に手をくわえ合わされて、海に溺れた。その底に沈んでいるときの名を底度久御魂と言い、海水のぶつぶつと粒立つときの名を都夫多都御魂と言い、泡が海面ではじけるときの名を阿和佐久御魂と言う。
訓読:ここにサルタビコのカミをおくりて、まかりいたりて、そなわちコトゴトにハタのヒロモノ・ハタのサモノをおいあつめて、「イマシはアマツカミのミコにつかえまつらんや」とトウときに、もろもろのウオどもみな「つかえまつらん」ともうすなかに、コもうさず。かれアメノウズメのミコト、コにいいけらく、「このクチや、こたえせぬクチ」といいて、ヒモガタナをもてそのクチをさきき。かれいまにコのクチさけたり。ここをもてみよみよ、しまのハヤニエたてまつれるときに、サルメのキミらにたまうなり。
口語訳:(天宇受賣命は)猿田毘古の神を送った後に、海にいる種々の魚たちを呼び集めて、「お前たちは天神の御子にお仕えするか」と聞いた。すると諸々の魚たちは皆「お仕えいたします」と答えたが、その中で海鼠(なまこ)だけは何も答えなかった。そこで天宇受賣命は「この口は返事ができない口だな」と言い、紐小刀で海鼠の口を切り裂いた、そのため、今でも海鼠の口は裂けている。その後、代々、伊勢から海産物を奉るときには、猿女の君に賜うことになっている。