人間精神の究極の原理としての言霊の学問はいったいいつ頃発見確立されたのでしょうか。
詳しいことは今後の研究、立証を待つより他はありません。けれども少なくとも現代の歴史学者や言語学者が日本の歴史について主張しているよりは遥か以前の出来事であったことは間違いないようにおもわれます。
なぜなら現在私達が日常使っている日本語の内の大和言葉というのはすべて五十音言霊の原理によって決定され命名された言葉であることが、その明かな証明でありましょう。言霊の原理を理解し、その原理の観点に立って現行の歴史学や考古学を再検討するならば、日本のれきしの起源は現在の常識より遥か遠い昔に遡ることが明瞭となります。
と同時に日本のみならず、世界各地の神話、宗教書等に示され、今の学者にはどうしても説明することができない多くの事柄が、この言霊の原理から考えると、いともすらすらと解釈することができるという事実にもよります。これよりその大略をお話しいたしましょう。
先に「言霊の発見と変遷」のところでお話しましたごとく、紀元前数千年の昔、言霊の原理が発見され、その後この日本列島においてその原理に基図いて人間社会の文化の創造、政治国家が建設され繁栄して時代が続きました。
言霊原理は遠く全世界に流布施行されるようになりました。いわゆる神話の時代です。ところがこの精神原理が人間のもう一つの性能面である物質文明の発展促進のために隠没される時がきました。約三千年前の出来事です。
原理の隠没とは消滅ではありません。一定期間を経て物質文化がある程度に進展した時、再び人間の脳裏から甦り、物質文明と車の両輪をなす精神文化の原理とならねばなりません。
そのために原理を隠滅する事業と平行して、その甦りの時の用意に、種々の方策が取られたのでした。
その第一は言霊の原理をあからさまではなく謎として呪示する神話の制定です。各民族の神話の原型はすべて言霊原理を表徴しています。
第二に世界的宗教の創生です。その目的は、言霊原理の韻没に続いて当然招来される人類の精神暗黒時代に生きる人類の心のよたどころとし、また、言霊原理が甦る時に備えて、その原理を受け入れ易くすくための人間精神の修練とするためです。
と同時に、言霊を各宗教書の中に表徴てきに暗示するためでもあります。
第三は、言霊の原理を形の上で表徴する各種の建造物を遺しました。例えば日本では伊勢の内外宮の本殿の作り方、仏教の多宝塔、五重塔、方丈等々がそれであります。
以上のような歴史的な記述は、今までの常識の枠をはみ出していますので首肯しかねる方が多いことと思います。けれども、今後この本の説明する道筋に則ってご自分の心の構造に踏み入って頂くならば、否定のしようのない事実としてなるほどとうなずかれることとなりましょう。
自己の心の中に踏み入ると申しましても別に特別な方法によるのではありません。数千年の歴史を持つ神道、儒教、仏教、キリスト教等の宗教に明示しているそれぞれの反省、修行をそのまま踏襲して、その上で各宗教が奥義としてきた内部にまで妥協することなく突き進んで頂ければこと足りるのです。
前置きはこのぐらいにして、言霊の原理はその隠没の時代にどのように呪示として遺されたのかを数例を挙げて説明してみましょう。