母音
晴れた日の夜空をじっと見上げていると沢山の星が瞬いているのが見えます。さらに見上げていますと、それらの星が浮かんでいる広い広い考えも及ばないほど広い宇宙が眼に迫っていて畏怖の念にうたれることでしょう。これが物質的な外界の宇宙です。今度はその場で目を閉じて思いを自分の心の中に向けてみましょう。ここにもいろいろな思い、意識、欲望、記憶、感嘆、道徳観等々が、ちょうど夜空に星が浮かんでいるように現れては消えて行く心の内面の広い広い宇宙が存在していることに気付かれることでしょう。これが精神的宇宙です。さらにこの心の宇宙に起こる自分の精神現象を見つめていきますと、この精神宇宙というのは単純な唯一の領域の構造ではなく、五つの別個の拡がりの積み重なりであることと、そしてその重なり方が単に五つの段階の並列と言うのではなく、一つの段階が完結した時、その点から次の段階が始まり、またその段階が完結した時点で次の段階が始まる、というように各次元段階の五層の重層という構造を持っていることが分かってきます。このような心の宇宙を母音で表し、また五つつのそれぞれの次元空間をウオアエイの五母音で表します。
五母音を実際に発音してみて下さい。どの音も息の続く限り同じ音が続き、変わることがありません。もちろんこの五つの宇宙は、そこからそれぞれの空間特有の精神現象が現れてきますが、その宇宙自体は決して現象とはならない先天性の永劫不変の実存です。
しからば五つの母音で表される宇宙とはそれぞれどんな空間なのでしょうか。
言霊 ウ オ ア エ イ。
言霊 ウ
人間が母親の胎内から生まれ出て産声を上げ次にすることはお乳を呑むことです。赤ちゃんは教えられることなく乳房をすいます。これは生来人間に備わった欲望本能です。これは人間の最も幼稚な機能であると同時に最も初発的な働きでもあります。この欲望の根拠ともなっている根源の宇宙を言霊 ウ といいます。眼耳鼻舌身と仏教でいう五感認識も結局この次元に入りましょう。赤ん坊が次第に成長して大人となり、美味なものがほしい、肩書がほしい、大臣になりたいと思うその欲望も言霊 ウ次元のものです。この次元の内容をよく表現する漢字を挙げますと、生、有、産等が考えられます。産業活動はこの次元に属します。
言霊 オ
赤ん坊から次第に成長し、物心かついてくると、人間は自分のしたこと、見たことを振り返って考えて、それはどんなものをどんな順序で繰り返せば同じような結果を手にすることができるのかを記憶するようになります。この記憶とその整理の働きの根本宇宙を言霊 オ というのです。この機能の高度に発達したものが一般に学問科学といわれているものです。抽象的概念による経験事項の把握表現の世界です。この言霊オの意味を漢字で拾うと、尾、緒、等が挙げられましょう。
「余韻か尾を引く」、とか「生命の玉の緒」などの言葉があります。過ぎ去ったものの記憶の働きとか関連とかいう意味です。
言霊 ア
人間は喜怒哀楽の感情を繊細に表現します。
この感情の世界は、欲望の世界とも記憶の世界とも様相を異にした世界です。この根源の宇宙を言霊 ア といいます。
「ああ」は感嘆の言葉であり、阿弥陀、アーメン、アラー等のアは国際的にも共通した感情音です。
この言霊アの次元から宗教、芸術活動が出てくるのです。
言霊 エ
以上の三つの宇宙から現れる心の現象は、それぞれ勝手に自己主張をします。欲望、記憶、感情は時には相剋し、時には協調します。心の葛藤が起こります。この時、この葛藤しているものをどのようにまとまった行動にするかの選択に迫られます。感情の赴くままにするか、純粋に過去の記憶の通りに動くか、欲望を先にするか、その按配をどうするかの選択の機能の根源宇宙が言霊エであります。
”エ”らぶ現象がでてくる根源の世界です。
ともするとこの機能は言霊オである記憶・整理の世界と混同しがちでありますのでご注意下さい。
言霊エの世界は社会的に見れば道徳とか政治の根本機能が発言する宇宙であります。
言霊 イ
この次元は他の四つの次元(言霊ウ、オ、ア、エ)に根底において力動を与え、統合し、その現象を言葉にして表現する人間意志の根本宇宙です。人間生命の根源である創造意志の実体となる世界です。この言霊イ次元は最も理解がむずかしいところでありますがのちほどもっと詳しく説明されるでしょう。人間に生きる根源意志があって初めて他の四次元が現象を産むのであります。この言霊イに漢字を当てはめると、生、胃、位、居、意等が適当でしょう。
以上で母音の五つの次元を最も幼稚な次元から高位な次元へとその内容を感嘆に説明しました。この五つの宇宙がそれぞれに特有の無言、無音の力動で充満し、しかもそれ自体は決して現象として現れることのない実在です。人間の精神機能はこの五つのせかいにおいて働き、この五つ以外の世界は存在しません。人間の心はこのウオアエイ五次元の重畳を住家とします。それゆえ人の住む所を大和言葉で五重(いえ)、すなわち、家、というわけです。