訓読:かれここにそのオオクニヌシのカミにといたまわく、「いまナがこコトシロヌシのカミかくもうしぬ。またもうすべきコありや」とといたまいき。ここにまたもうしつらく、「またアがこタケミナガタのカミあり。これをオキテハなし。」かくもうしたまうおりしも、そのタケミナガタのカミ、チビキイワをタナスエにささげてきて、「たれぞワガクニにきて、しぬびしぬびカクものいう。しからばチカラクラベせん。かれアレまずそのミテをとらん」という。かれそのミテをとらしむれば、すなわちタチビにとりなし、またツルギバにとりなしつ。かれおそれてしりぞきおり。ここにそのタケミナガタのカミのテをとらんとコイかえしてとれば、ワカアシをとるがごと、ツカミひしぎてなげはなちたまえば、すなわちニゲいにき。かれオイゆきて、シナヌのクニのスワのウミにせめいたりて、コロサンとしたまうときに、タケミナガタのカミもうしつらく、「かしこし。アをナころしたまいソ。このトコロをおきては、あだしトコロにゆかじ。またアがちちオオクニヌシのカミのミコトにたがわじ。ヤエコトシロヌシのカミのコトにたがわじ。このアシハラのナカツクニは、アマツカミのミコのミコトのまにまにたてまつらん」ともうしたまいき。
口語訳:そこで大国主神に「いまあなたの子、事代主神はあのように言った。他に意見を言う子がいるか。」と訊ねた。大国主神は「もう一人、建御名方神がいる。彼の他にはいない」と答えたとき、その建御名方神が、手に千引石(千人でなければ動かせないような大きな岩)を手のひらに載せてやって来て、「誰だ、私の国に来て、ひそひそとそんな話をしている奴は。それなら力比べをしよう。まずあなたの手を私に取らせよ」と言ったので、手を彼に握らせた。ところがつかんだその手は、つららのような氷と化し、また剣と化した。建御名方神は驚き恐れて退いた。次に今度は(建御雷神が)建御名方の手を取らせよと言ってつかんだところ、生え出たばかりの柔らかい葦を握るようにひしゃげた。そのまま遠くへ放り投げた。建御名方は逃げ出した。それを追って、ついに信濃の国の諏訪の湖まで追い詰め、殺そうとしたところ、建御名方神は「かしこまりました。私を殺さないでください。私はこの地に留まって、どこにも行きません。また父大国主神の命に従います。事代主神の言った通りにします。この葦原の中つ国は、天神の御子の御心のままに献げましょう。」と言った。