四つの五十音図。
五十音図といいますと一般には小学校のときから教えられたアイウエオが唯一のものと思われていました。なぜ縦にアイウエオと並び、横にアカサタナハマヤラワと並べるのか、ただ教えられたからそう覚えて使っているだけです。
そもそも音図とは何なのでしょうか。巻頭序の書き出しの答は次の通りです。先にお話ししてきましたように人間の精神は全部で五十個の最小単位の要素から成立しています。
五母音、五半母音、八父韻、三十二子音です。
これで全部ですし、これ以上でもこれ以下でもありません。大昔、日本人の祖先はこのことを探求解明し、同時に、この五十音をどう配列したら、言い換えますと、人間がどのような心の持ち方、どのような精神構造であったら、理想なのであろうかということを解明したものが五十音図なのです。
この場合、心の住む次元、すなわち母音を右側に配列します。そして人間の最も行動の眼目となる次元を五母音の中心に位置させます。
例えば、商売行為の眼目には欲望であり言霊ウです。
しかし商人の世界が欲望、言霊ウであるとはいっても、商人に経験知、感情、道徳心等々がないわけではありません。
ただ商人は商売をする時、言霊ウ以外の次元はウ次元の目的を達成するための道具に使うことにとなります。
その道具に使う他の四次元の中で大切な道具ほど仲側から配列して行きます。
そうしますとウ言霊中心に生きる人の心の母音体系は、上より、アイウエオと並びます。
そしてウ次元の欲望を達成するための意志の運び方、すなわち母音と半母音とを結ぶ懸け橋である八つの父韻のの配列は、先に述べましたようにキシチニヒミイリであります。
以上のことを総合して五十音図を作製しますと下図のごとく私達が常に使っている五十音図を得ることになります。
言霊 ウ
アカサタナハマヤラワ
イキシチニヒミリヰ
ウクスツヌフムユルウ
エケセテネヘメエレヱ
オコソトノホモヨロヲ
しかしながら右の道理をそのまま進展させますと、この音図のほかにさらに四つの音図がある勘定になりましょう。
すなわち言霊オ、ア、エ、イを主眼目にした心構えを表す精神構造の音図です。詳しく言えば、
言霊オである経験知、一般に科学的探求に必要な心構えの音図、
言霊アである芸術宗教に備わった感情構造の音図、
言霊ウオアの次元の事象をどのように選択していくかという、一般に道徳、政治に必要な言霊エである心構えの音図、
さらに言霊イである、精神の深奥にあって他の四つのの次元の原動力となる人間意志そのものの音図、
これらの四種があるはずです。
この四種類の音図を簡単に書くと40頁の図15~図18のようになります。
言霊 オ
アカタマハサナヤラワ
イキチミヒシニイリヰ
オコトモホソノヨロヲ
ウクツムフスヌユルウ
エケテメヘセネエレヱ
言霊 ア
イチキリヒシニイミヰ
エテケレヘセネエメヱ
アタカラハサナヤマワ
オトコロホソノヨモヲ
ウツクルフスヌユムウ
言霊 エ
アタカマハラナヤサワ
イチキミヒリニイシヰ
エテケメヘレネエセヱ
オトコモホロノヨソヲ
ウツクムフルヌユスウ
言霊 イ
ア・・・・・・・・・・・・・ワ
オ・・・・・・・・・・・・・ヲ
ウ・・・・・・・・・・・・・ウ
エ・・・・・・・・・・・・・ヱ
イ・・・・八父韻・・・・ヰ
昔の日本人は右に図示した音図のうち、言霊オを中心としたものを赤珠音図(ア段が横にアカタマと続くため)、言霊アを中心としたものを宝音図(ア段の二番梅からタカラと配列されるため)、言霊エを中心眼目としたものを天津太祝詞音図(アマツフトノリトオンズ)、言霊イのものを天津菅麻音図(アマツスガソオンズ)、と呼んでいました。
また先に掲げた言霊ウが中心となった音図を天津金木音図(アマツカナキオンズ)と申します。現在はなぜ言霊ウを中心とした天津金木音図のみが一般に伝わり教えられているのでしょうか。
それはここ二千年ほどの間、世界の歴史は人間が持つ五つの性能の内で第一に言霊ウが独走する時代であったからです。
言霊ウが他の次元の人間性能と調和が保たれない時、招来する社会国家の世相は弱肉強食の権力思想に塗りつぶされてしまうこととなります。言霊ウを眼目とする音図こそ現代社会にとって最もぴったりした音図ということができるでしょう。
なお言霊イ中心の天津菅麻音図のみは、縦の母音、横の父韻とも、その配列が先に述べた配列法則と異なります。
それは言霊イ、すなわち人間の根本意志は他の性能の底に働いて現象を生起させますが、意志自体は現象としては現われないからです。そのため母音配列と八父韻の順序は定まりません。
生れたばかりの素朴な状態の意味でスガスガシイ麻または衣と名付けられたわけです。