投稿日: Apr 15, 2018 8:41:45 AM
記録の書き方についての研修を、何度かさせて頂いたことがあります。記録に関する研修の冒頭では、良く「正直、記録が苦手だという方?」「書くより話す方が好きな方?」などの質問をさせていただきます。「記録が苦手」といわれる方は6,7割、「書くより話す方が好き」といわれるかたは、7,8割であることが多いです。続けて「実践後に、『あー、すごく可愛かったA君の言葉、思い出せないのが残念。すごく素敵なことを言っていたのだけど』と残念に思ったり、『残しておきたい素晴らしい場面があった』、と後になって思ったりしたことがある方」と尋ねると、これも大変多く、8割以上の方が手あげてくださることが多いです。記録の苦手意識の払拭には、「書かねばならない記録」といった強いられている感じや、「書かされている記録」といった受け身な感じを、いかにして軽減できるか、が大切であると思います。
記録の時間が十分に確保されておらず、焦りながらお昼寝の時間で書いたり、持ち帰って疲弊しきっている中で書いたりといった、記録を書く時の状況が苦手意識に関係している場合も多々あると思います。
「記録は苦手」といった気持ちの中身を「本当に記録が苦手なのか?」、「記録そのものではなく、記録に伴うプレッシャーや記録を実際にする状況がしんどいのか?」を問い直す必要があると思います。なぜならば、多くの保育者が、残したい子どもの言葉、残したい保育の場面がたくさんある、と思っておられるようだからです。
園内研修で記録への苦手意識を払拭するように、記録そのものではなく、記録に伴う諸条件を抽出しあい、園のマネジメントを再考するのもよいかもしれません。
園内研修等で、記録をつける意味について、話し合っていただきたいと思います。記録の意義についてスタッフ間で共通認識をもっていただくことが大切であると思います。それは、保育の仕事への誇り、そして、専門職として不可欠なものであり、その機能の大切さを自覚することが、記録への苦手意識の払拭にもつながるように思うからです。
1)専門職の説明責任
一般的に専門職といわれる仕事には必ず「記録」が存在します。専門職の要件とは、その仕事に必要な特化した知識や技術が何かを問うものです。その中で、人と接する専門職の専門技術として、調査や記録、報告が位置づけられてきました。
保育の実践記録をメモや日記のようにつける個人記録や私的記録ももちろん保育実践の省察によるよい実践の引き出しづくりや、課題の意識化に繋がるので、意義があります。しかし、さらに大切にしたいのは、公的な記録です。つまり、専門記録とは業務記録であり、これが規定されていることが、専門職の要件の一つといえます。
公的記録とは、例えば幼稚園については、ご承知のとおり、「学校教育法施行規則」で学籍に関する記録が最低20年間保存することとなっており、発達や指導の過程と結果の要録が指導に関する記録は最低5年間保存することとなっています。ここでは公的に重要な仕事であるからこそ、その実践内容を残すこと、説明責任を果たすことが必要とされているのです。多くの保育所では記録様式が規定されており業務記録が大切にされています。
2)記録の意味
園内研修等で記録の意味と問われると「実践の質の向上を図るために大切だ」といった意見が出てくると思います。さらには、「実践の質の向上」を記録によって「どうやって図るのか」をより具体的に出し合うことが大切であると考えます。例えば出てきた意見を整理してより意識化が図れるように、以下のように、分類したり整理したりしてみるとよいと思います。
記録の意義
① 子どもの理解のために・・・・・発達の過程、興味・関心
② 「ねらい」「めあて」を明確にするために・・・発達の見通し、育みたい力
③ 実践計画を具現化するために・・・・・・・・記録しながら考える
④ 実践の振り返りを具体的に行うために・・・記録しながら評価する
⑤ 自分への宿題を課すために・・・どんな知識、技術を習得し、何をするのか
⑥ 伝えるために・・・・・子どもたちとの共有、保護者との共有
3)省察こそが人と接する専門職の実践力向上の鍵
人と接する専門職は対象とする相手が人であるため、不確定要素が多く、個別性が強くまた、実践というライブで展開する中で、即決で判断をくださねばならないという特徴があります。だからこそ、とっさの判断の根拠、自分の実践の礎を創るために、振り返り・省察による学びの継続性が大切になってきます。学び続けることが人と接する、実践を伴う専門職にとって必須なのです。このことを実感できるような、研修つまり省察(課題抽出)→学習(知識習得・情報収集)→決断(実践における判断、意思決定、問題解決)により実践力の向上を図っていくことが期待されるのです。
(3)記録への苦手意識を克服しよう
最後に、記録への苦手意識を克服する研修の実施を推奨したいと思います。以下にヒントを例示したいと思います。多くの保育者が記録に対する苦手意識を克服し、記録を楽しみ保育の醍醐味を可視化して欲しいと願っています。
① 同じ内容でも読み手を想定し記録の書き方のバリエーションを考えるような研修を実施する。
② 記録の習慣をつける。記録のうまさは量に比例する(業務記録は才能より経験=どんどんかけばどんどん早くなる)。
③ 手順リストや様式を工夫してつくり、より書きやすい記録の書き方を考える。また記録が素早く書けた経験を蓄積する。
④ 記録を楽しむ。ITCの活用等様々なツールを遊び感覚で導入して記録を作成することがより楽しくなるように工夫する。
次週の記事は【006 ドキュメンテーション研究】です。
※本記事の内容は、特定非営利活動法人ちゃいるどネット大阪情報誌「ちゃいるどネットOSAKA」に掲載されたものを許可を得て転載しています。
(執筆者 北野幸子 2018年3月17日)