投稿日: Sep 19, 2016 5:45:12 AM
本書は、一般向けに「心理学の知見を踏まえてモチベーションに関する考え方を紹介すること」(ⅱ頁)を目的としたもので、モチベーション(動機づけ)に関するこれまでの研究成果の歴史的な流れや現在の考え方について分かりやすく説明されている。
保育関係者であれば、第2章と第3章が直接的に保育に関連しており、読みやすいと思う。
第2章では、具体的な報酬(賞状)が内発的な意欲(自由時間に絵を描くこと)を低下させることを明らかにした古典的な実験が紹介されている。厳密には、報酬そのものよりは、子どもが報酬を期待することが内発的な意欲を低下させるようである。特に「○○(活動)したら、××(報酬)を与える」という交換条件付きの報酬は、ある活動が目的でなく手段となり、子どもの自律性を失わせるという。
第3章は「ほめる」ことが主題であるが、ほめれば伸びるという考え方は一般的には正しいが、逆にほめることでやる気を失うという研究結果もある。例えば、ほめられることで、「がんばろう」という気持ちが出てくるが、それが逆にプレッシャーや不安を生じさせてパフォーマンスが落ちたり、失敗をおそれて難しいことに挑戦しなくなったりする。効果的なほめ方は、「誠実に」「努力を」「具体的な行為を」ほめることである。
第2章も踏まえれば、やる気を高めたり、望ましい行動を増やしたりするために効果的にほめることも大切だが、自律性の欲求を満たす援助や環境を整えることも重要だと気づかされる。この点は保育につながるものであろう。
第4章以降は、個人レベルで仕事をする上でモチベーションを高めたり、管理者が職員の指導にも応用したりできると考えている。
(紹介:鶴 宏史,2015年6月23日)
目次
第1章 モチベーションとは
第2章 アメとムチの隠された代償
第3章 ほめることは効果的?
第4章 自律性とモチベーション―自己決定理論
第5章 小さな池の大きな魚効果
第6章 人との比較の中で形成されるモチベーション―カギとなるのは有能感
第7章 悲観的に考えると成功する?―ネガティブ思考のポジティブなパワー
第8章 無気力への分かれ道―原因帰属
第9章 モチベーションも目標次第
第10章 無意識とモチベーション