Chapter 11 Auditory and Musical Development.
Laurel J. Trainor & Chao He.
pp.310-337.
幼い子どもたちとやり取りする際、歌を通じてコミュニケーションをとることは、世界中で見られる現象だと言われています。聴覚系は、会話や音楽を通して人と人とがコミュニケーションを行うための基盤であり、人間の発達の多くの側面と関連しています。
聴覚系の成熟は10代に入ってからと言われていますが、聴覚系自体は出生前から機能しており、聴覚処理のレベルによっては、乳児でも精緻な処理能力を示すことがあります。
この章では、音と音楽が発達とともにどのように処理されるようになるのか、聴覚と音楽の発達に関する時間的な流れについて知ることができます。
聴覚の発達について次の2点について検討する。
(1) 対象(オブジェクト;object)の同一性と定位(聴覚情景分析)について
(2) 音楽構造と意味について
行動および脳研究により、音の周波数(frequency)、高さ(pitch)、強さ(intensity)、音色(timbre)、定位(location)を処理する能力が、発達のかなり早い段階で既に存在することが示唆されてきた。ただし、幼児期のうちは十分に発達せず、成人レベルになるまで成熟し続けるという可塑的で経験依存的な期間もある。
乳児(young infants)でも音楽構造について処理することは可能であり、音楽システムに関する特定のメロディ、ハーモニー、リズムの構造に対する文化化(enculturation)は、その文化の全成員が経験する音楽システムへ大量に曝された結果である。徹底的な音楽教育は、音楽の文化化の速さ(speed)と程度(degree)に影響を及ぼす。
キーワード:聴覚(auditory perception),音楽(music),音高(音感,ピッチ)(pitch), リズム(rhythm),聴覚情景分析(auditory scene analysis),音源定位(sound localization),時間分解能(temporal resolution),メロディ(melody),ハーモニー(harmony),拍子(meter)
聴覚情報は、(1)対象とその定位(聴覚情景分析)、(2)音楽構造と意味、および(3)言語構造と意味に関する情報を我々に知らせるものである。
聴覚系の発達は、それぞれ特定の経験に左右される。
音楽と言語に関する聴覚の発達は、perceptual narrowing(知覚狭化,知覚的狭小化,知覚的刈り込み)に従って進んでいく。乳児は最初のうちは識別能力の範囲が広いが、その後、特定の音楽システムや言語を経験することによって、適応範囲が狭まっていく。特に知覚については、特定の音楽システムや言語において重要な識別能力が向上し、重要とされない区別は苦手になっていく。
乳児でも、音の周波数(sound frequency)や音高(音感,ピッチ)(pitch)、音色(timbre)、強さ(intensity)、定位(location)の違いを処理できるものの、これらの能力は、子ども期に入っても向上し続ける。脳波測定によって、聴覚皮質(auditory cortex)での処理が十分に成長するのは、10代後半であることが示唆されている。
乳児は、感覚的協和(sensory consonance)やオクターブ等価(octave equivalence)、相対音感(relative pitch;移調(transpositonal invariance))およびリズム(韻律)構造(rhythmic (metrical) structures)に敏感であり、等間隔に分けた音階よりも不均等な音階をよりよく処理する。
乳児は、特定の音楽システムに曝されることによって、その音階構造(ある調の条件となる音階)、調波構造(harmonic structure)およびリズム(韻律)構造に対する敏感性を獲得する。
乳幼児期および子ども期における正式な音楽教育は、脳発達に計り知れない影響を与える。
(発表担当者および発表日:伊藤理絵/2014年12月20日)
(まとめ:伊藤理絵)