投稿日: Mar 11, 2020 2:56:49 PM
私たちは「~した方がよい」と望ましい行動を知っているが、なかなかそれが実行できない。そして、直接「~した方がよい」と伝えられても効果がないことが多い。そのため、「つい~したくなる」ような間接的なやり方で、結果的に問題解決を図るアプローチが必要となる。本書は、自分から「つい望ましい行動をしたくなる」/「望ましくない行動をおさえる」環境づくりや仕組み(=仕掛け)の事例を分析し、体系化したものである。
2つほど例をあげる。
【例1:バスケットボールのゴールのついたゴミ箱(室内で玩具入れとして使用)】
ゴールがついていることで、ついおもちゃを投げてシュートしたくなる。シュートして遊んでいるうちに結果的に玩具がゴミ箱に片付く。
【例2 小さな鳥居を路地の塀に置く】
ゴミの不法投棄を減らしたり、散歩中の犬が用を足すのをやめさせたりするために置かれている。なぜなら、鳥居は従来、神社の入り口にあるので、神聖な場所を想起させ罰当たりな行動を慎ませる効果があるためである。
仕掛けの定義には、「(望ましい方向に)行動を変えるきっかけになるもの」(本書24頁)、
「問題解決につながる行動を誘うきっかけとなるもの」(同36頁)、「行動の選択肢を増やすもの」(同48頁)などとされている。そして、本書では「良い仕掛け」と「悪い仕掛け」の区別に関して、良い仕掛けを対象とし、「仕掛ける側と仕掛けられる側の双方の目的を知ったときに『素晴らしい、こりゃ一本取られた』と笑顔になるのが良い仕掛けであり、『だまされた、もう二度と引っかからないぞ』と不快にさせるのが悪い仕掛けである」(本書35頁)と説明している。
仕掛け(良い仕掛け)を定義するための3つの要件を挙げており、これらを全て満たせば「仕掛け」とされる。3つの要件とは、①公平性(Fairness):誰も不利益を被らない、②誘引性(Attractiveness):行動が誘われる、③目的の二重性(Duality of purpose):仕掛ける側と仕掛けられる側の目的が異なる、であり、頭文字を取って「FAD要件」と呼んでいる。先ほどの例1でいけば、①おもちゃが片付くので誰も不利益を被らない、②バスケットゴールが玩具を投げる行動が誘われる、③仕掛ける側は「玩具を片付けてほしい」という目的、仕掛けられる側は「玩具をゴールに狙って投げる(のを楽しむ)」目的という二重性である。
さらに表のように、仕掛けの原理として、大分類2種類、中分類4種類、小分類16種類を挙げ、しかけはこれらで説明できると指摘する。先の例2で説明すれば、小さな鳥居がその色や形状という「物理的トリガ」が、罰があたらないようにという「心理的トリガ」を生む。その心理的トリガは、「社会的文脈」という社会的な制約がもたらす心理的働きがあり、鳥居は神聖な場所にあるので罰当たりなことは慎むべしという「社会規範」が根底にある。原理の詳細(と第3章の仕掛けの発想法)は本書を参照してほしい。
また、行動経済学でいう「ナッジ」との違いについては、ナッジは、デフォルトの選択肢の設計方法、仕掛けは、オルタナティブの選択肢の設計方法と説明している。
本書は保育と直接的には関係しないが、「環境構成」を理論化したり、別の角度から捉えたりする際に有用な文献と考えている。
(紹介:鶴 宏史,2020年3月1日)
目次
序章 「ついしたくなる」には仕掛けがある
第1章 仕掛けの基本
第2章 仕掛けの仕組み
第3章 仕掛けの発想法
おわりに
参考文献
写真クレジット