投稿日: Sep 23, 2016 6:12:45 AM
著者は、長年、建築学の視点から国内外の住居に見る子ども部屋について調査し、子どもが一人になることのできる空間の意義について研究しています。この本は子ども部屋に焦点をあてたものですが、子どもの自律を促すという点から、幼児期から子どもが一人になる空間をもつことの意義をわかりやすく説明しています。
本の前半部分では、5歳から青年期までの1,000人以上を対象とした調査から、プライバシーの概念を①考えごとをする、②空間接近へのコントロール、③行動の選択、④狭義のプライバシーの四つに分類し、自律を育む場として幼児期に求められる個室の機能について、絵本に描かれる子どもの姿を用いながら説明しています。また、子どもは悲しい時や腹が立った時には空間を道具として用いながら自分をコントロールすることを学んでいく、その役割からすると、何も立派な子ども部屋が必要であるというわけではなく、子どもが寝ころべる程度の小さな空間があれば十分であるというのが筆者の主張です。「空間を道具として用いる」という発想が興味深いです。
幼稚園、保育所、認定こども園等の集団保育施設では、子どもが一人になることのできる空間を意識的に配しているでしょうか。わが国においてはあまり見かけません。しかし、大人の視界から逃れるように、園庭の隅っこやロッカーの壁の隙間、階段の下の狭いスペースに一人で隠れている子どもや、一人で木に登って、あるいはブランコをこいだり鉄棒にぶら下がったりしながら遠くを眺めている子どもの姿はよく見かけます。
多くの園では保育者が意識して子どもが一人になれる環境をつくる、というよりも子どもたちが今ある環境の中から一人になれる状況を作り、あるいは一人になれる場所を見出しているのではないでしょうか。
一日の大半を園で過ごす子どもたちの自律を促す環境の一助として、本来自宅に設えられるような子ども部屋の機能と役割を園環境においても保障することも一案ではないでしょうか。
表 1(著書の内容をもとに筆者が作成)
(紹介:中田範子,2016年9月11日)
注1 M.Wolf(1975,1976,1978)のいう「ブライバシー意識の確立状態」をベースにして、著者の行った調査結果から作成した概念
目次
1. 子どもと子ども部屋の起源
2. 子ども部屋の機能と役割
3. 住まいの絵本にみる幼児期の子ども部屋の使われ方
4. 成長段階における子ども部屋の事例研究
5. 自律心が芽生える子ども部屋づくり