投稿日: Sep 19, 2016 5:48:19 AM
私の育った家は、台所の扉を開けると一面に田園風景が広がり、そのずっと向こうにJR線が走り、長い列車の車体が走るのを、途切れることなる眺めることができた。
風が吹くと田んぼの水面が揺れ、あぜ道に立つ私は海の真ん中を飛んでいるような気持ちになり、たくさんの空想をした。歌を歌いたくなると、田園風景を観客に大声を張り上げ、天気のいい日には木登りをして、家の屋根に上り、普段は自分に近い地面が遠くに見えること、私に気づかずに家族がそれぞれ仕事をしている姿をぼんやりと眺めた。いつものぼる木にヘビが絡まっていたり、蝶が野草に止まっていたり、カエルの合唱が眠りにつく私のところまで聞こえてきたりと、「自然」はいつも私の隣にいた。蛍を見に祖母と暗いあぜ道を歩いたこと、流星群が次々に流れ星になって私の目に飛び込んできたこと、自分なりに抹茶をつくったこと、泥んこのホットケーキ、つくしのお浸しなど、今考えても数えきれないくらい家の周囲での思い出があふれてくる。
私にとって、それらの思い出はとてもとても大事なものであり、空想やイメージする楽しさ、試行錯誤する自由、自然に対する感動など、さまざまな経験を得られたと思っている。そしてその体験が、今の私の「核」になっているとも思う。
都会に出て子どもを産み育ててみると、私一人の力では、私が育ってきたような自然とのふれあいを子どもたちに味わわせることは困難で、つくしのお浸しさえ、雑草での色水づくりさえも難しかった。
ふとしたことで、園庭にビオトープがある保育園の存在を知り見学させていただいた。その園はビオトープだけでなく、築山、芝生の小山、石垣、丸太、ポンプ、実のなる木、野菜畑、さらさらと葉が重なり合う樹々たちに囲まれていた。子どもたちは、偶然出会ったトカゲに夢中になり、バッタに声をあげ、かりんの匂いを嗅いではしゃいでいた。ナスやトマト、イチジクが大きく色づく様子を日々感じ、草花を混ぜた泥んこ誕生日ケーキをごちそうしてくれた。私が子どもの頃、夢中になって遊んでいた姿がそこにあり、私も子どもになって一緒に丸太をステージに見立てて歌ってみた。何かをする自由さ、何かを取り入れる自由さと楽しさがいっぺんに私に迫ってきた。
『園庭大改造』は、そんな園庭たちを紹介する本である。
果樹、雑木林、匂いの丘、隠れ家、緑のカーテンなど、わくわくする素材がたくさんちりばめられている。もちろん、そうした園庭を日々守るのは、現場の保育士の役割であり、保育士もまたそうした園庭で遊び込むことの楽しさを実感していないと難しいだろうな、とも思う。
運動場型の園庭では物足りないと考える方、一度読んでみてください。そして、一緒に素敵な園庭見学に行きましょう(そして、遊びましょう)。
(紹介:中谷 奈津子,2015年6月24日)
目次
1.命の営みを感じられる園庭に―園庭が子どもを育てる―
2.園庭改造に取り組もう
3.保育園児と“センス・オブ・ワンダー”